Report1 Joetsu City
市町村合併後、更なる安全衛生の取り組み 上越市
取り組みのポイント
- 初めて人事課副課長に保健師を配置し、メンタルヘルス不調者の改善を図る
- 専門家による職場の安全衛生診断結果を全庁に周知
あわせて安全衛生の確認と改善に係る新年度予算の要求を通知 - 毎月第2火曜日を「整理整頓の日」とし、継続して4Sに取り組む
上越市は、平成17年1月1日に全国最多となる14の市町村が合併し、21万都市が誕生しました。しかし、この合併が職員に対する新たな負荷になったことは想像に難くありません。そして、平成19年度には特例市へ移行し、より多くの行政サービスが迅速に行えるようになりました。こうして業務量が増える中での、職員の安全衛生を守る上越市の取り組みを紹介します。
1 合併後の取り組みの充実
新たな行政需要と課題への対応や、平成17年の合併、平成19年度の特例市への移行と、職員は業務の増大に対応しなければなりませんでした。
このため市ではメンタルヘルス不調者が出ないよう、平成20年度までに全職員2,037名にメンタルヘルス研修を実施しました。また、平成21年度からは、管理監督者にしっかりラインケアを行ってもらうために、係長級以上の全ての役付職員(平成24年度133名)を対象に、傾聴などのグループワークを取り入れた実践的な研修も開催しています。
平成17年新しい上越市が誕生
これらの取り組みにより「管理監督者が職員のマネジメントの中で、メンタルヘルスに対する意識を持ってくれるようになりました。」と人事課職員厚生係の伊倉 大輔氏は研修の効果を語ってくれました。
こうして、メンタルヘルス不調への理解が進むことで、精神科や心療内科への敷居が低くなり、早期の受診やカウンセリングルームの心理療法などにつながっています。
その他、平成20年度から市安全衛生委員会の意見を受けて、委員会の会議録及び資料を庁内ネットワークで公開し、公務災害等安全衛生に係る情報を全職員に提供するほか、平成22年度から委員会を毎月1回必ず開催するなど、安全衛生の取り組みをさらに拡大し推進してきました。
しかし、様々な取り組みにもかかわらず、合併後に増加したメンタルヘルス不調者の状況はなかなか改善されませんでした。
合併当時を語る滝澤課長
「月1回の委員会開催は大変です」と
ご苦労を語る伊倉氏
人事課長の滝澤 良文氏は語ります。「職員数70~80人規模の村から約1,300人の上越市までが一つになりましたので、仕事のスタイルなどの異なる職員同士が、一丸となって市の行政を運営していかなければなりませんでした。合併前まで、規模の小さい町村の職員は、一人で多様な業務を幅広く受け持っていました。これに対して、規模の大きい合併前の上越市などでは、専門的な仕事を深く掘り下げて行うというスタイルでした。このように仕事に違いのある市町村が一つになったので、職員には戸惑いがみられました。」
2 初めて人事課副課長に保健師を配置
そこで市は、メンタルヘルス不調者の状況を改善するため、平成23年度に思い切った人事を行います。それまで、保健師が全くいなかった人事課に、初めて保健師の金子 弘子氏を副課長に配置したのです。
それまでは、健康福祉部門に勤務する保健師が、必要に応じて面談等の指導・支援を行っていました。このため、健康面に問題を抱える個々の職員を継続して指導等することは難しい状況でした。
人事課副課長に保健師の金子氏を配置することによって、心身の不調者を減らそう…現状を何とかして改善しようという市の考えが伺えます。
金子氏の配置により、健康診断後の手厚いフォローアップのほか、メンタルヘルス不調で休業した職員に対しては、休業中や復帰前後に何度も電話や面談を行うなど、メンタル面で不調を抱える職員への指導・支援が継続して行えるようになりました。
また、精神科の産業医と密接に連絡が取れるようになったことで、メンタルヘルス不調者に係る情報共有がスムーズに行えるようになりました。
「最初は手探りでした」と語る
人事課初の保健師で副課長となった金子氏
これらの取り組みが、メンタルヘルス研修により全庁的にメンタルヘルスへの理解が進んだことなどと相まって、メンタルヘルス不調による休業日数の減少につながっています。
メンタルヘルス不調による平均休業日数(病気休暇+休職者)の状況
滝澤課長は語ります。「メンタルヘルス不調者の状況を改善するため、当時の幹部が判断して、平成23年度に金子副課長を迎えることになりました。休職中から面談を何度も行ってフォローアップしてくれている金子副課長の功績は大きいです。」
3 安全衛生の改善に係る新年度予算の要求
市では毎年、(一財)地方公務員安全衛生推進協会が行う職場環境改善アドバイザー派遣事業を利用し、専門家による職場の安全衛生診断を実施しています。そして、診断結果については、総括安全衛生管理者(市総務管理部長)が全ての所属長あてに通知するとともに、各所属で診断結果の指摘事項と同様の状況がないか確認を求めます。
さらに、確認の結果、改善の必要がある場合には、直ちに改善することとし、予算措置が必要な場合には、新年度予算を要求するよう求めています。予算措置が必要な場合でも全庁的に改善を図ろうとしています。
4 4Sをきちんと継続
業務量の増大で市役所のあちこちに書類等が置かれるようになってしまいました。そこで、平成21年8月から毎月第2火曜日を「整理整頓の日」とし、職場内の不要物を一斉に回収し、職場環境の向上を図っています。
その日は、午後にリサイクルカーが待機し、「今日は整理整頓の日です。職場環境を見直しましょう。」と庁内の一斉放送が入ります。職員はそれにあわせて整理していた不要物を搬出します。伊倉氏は「ちょっとした不要物は捨てられますので、この日を意識して棚の上の物を整理するなど、職員に整理整頓の習慣がついていると思います。」と効果を語りました。
継続して4Sをみんなで実践
待機するリサイクルカ―に不要物を搬入
職場の4Sである「整理」「整頓」「清掃」「清潔」に継続して取り組むことで、職場環境の改善を職員に根付かせています。
アドバイザーより一言
毎月開催している安全衛生委員会の審議事項に対する決定・実施事項を、イントラネットを利用して周知しているほか、毎月第2火曜日を整理整頓の日として、継続して全庁的に不要物の廃棄に取り組まれていることは大変良いことです。
さらに、イントラネットによる周知が一方通行にならないよう周知状況を確認したり、整理整頓における手順・基準を作ると、現在の取り組みがさらに進んだものになると思います。また、職場巡視を委員会活動として、さらに頻繁に巡視すれば委員会の活性化につながりますので、検討してみてください。
中央労働災害防止協会 関東安全衛生サービスセンター
安全管理士 池田 尚之