Report12 Higashiosaka City
知恵と工夫による多様な安全衛生の取り組み 東大阪市
取り組みのポイント
- 小規模な常任委員会等の設置により臨機応変な安全衛生管理体制を整備
- 手作りアンケートの活用により予算ゼロで衛生活動を展開
- 少人数のメンタルヘルス学習会を毎月開催しラインケア等への理解を促進
多くの地方公共団体において厳しい財政状況が続く中、安全衛生に係る新規予算の確保も困難な状況にあります。しかし、東大阪市は、職員が検討・作成したさまざまなアンケートを実施して、予算ゼロで衛生活動を展開しています。また、人事研修制度の対象者以外の多くの職員に知識普及を行うためメンタルヘルス学習会を実施するなど、職員の知恵と工夫により安全衛生の向上を図る東大阪市の取り組みを紹介します。
1 小規模な常任委員会等の設置により臨機応変な体制を整備
東大阪市は、安全衛生委員会規程等により15の安全衛生委員会を設置していますが、市役所を事業場として設置している「東大阪市職員安全衛生委員会」は、他の委員会委員も構成員としています。これによって、市職員委員会は他の委員会との情報共有や調整機能も担っています。しかし、他の委員会委員を含めることで委員総数が36名となり、頻繁な開催は困難です。そこで、市では現在、市職員委員会の下に小規模な2つの委員会とチーム部会を設置し、安全衛生に係る課題に対して、臨機応変に検討できる体制を整備しています。
東大阪市安全衛生管理体制
市職員委員会で専門的な検討が必要と判断された事項については、常任委員会に付託されます。常任委員会では内容に応じて、さらに2つのチーム部会のいずれかに調査・検討を依頼します。結果についてはチーム部会から市職員委員会に報告され、審議・決定が行われます。保健師で職員課職員健康室長の武市 美代子氏は「市職員委員会にはほとんど全部局の委員がいますので、議会などが重なると開催日程の調整が困難です。また、大人数で専門的な問題を検討するのは効率的でもありません。そこで、委員会の下に小規模な組織を設置して必要に応じて開催し、専門的な問題に対して効率的な検討を行っています。」と趣旨を語りました。
これまで常任委員会等では、調査やアンケートの素案等の検討が行われています。こうした少人数による安全衛生に係る組織を設置・活用することで、市では専門的な問題に対して効率的に対応しています。
職員課職員健康室の皆さん。左から小林 和平氏、武市室長、副主幹の辻 惠子氏
常任委員会等の活動状況
名称 | 活動状況 |
---|---|
常任委員会 | 構成員16名。市職員委員会からの付託事項をチーム部会に依頼し、調査・検討 |
健康調査チーム部会 | 構成員9名。職員のこころの健康状態アンケート(平成17年度)及び長時間労働による健康障害の防止に関するアンケート(平成24・25年度)の内容を検討 |
VDT作業安全衛生管理対策委員会 | 構成員9名。市のVDT作業に係る基準の内容を検討、見直し |
2 手作りアンケートを活用した予算ゼロの衛生活動
安全衛生活動は短期的に効果が表れにくいことから、特に財政状況が厳しい現状では、新規事業の予算措置がされにくい状況です。しかし、市では予算ゼロでも職員健康室がさまざまなアンケートを作成・実施して、職場環境や職員の健康状態の把握等の衛生活動に取り組んでいます。武市室長はこう語ります。「新規事業の予算要求をしてもなかなか付きません。そこで、予算措置が難しくてもできることから始めようと、職員が質問項目を考えてさまざまなアンケートを行っています。集計データの分析は今後になりますが、まずは実態を把握しておけば後々活用できると考えました。また、アンケートを実施することは、その内容に対する意識啓発にもつながります。」
平成24年度に実施した長時間労働による健康障害の防止に関するアンケートでは、所属長に対して職員の長時間勤務や健康状態の把握状況を聞くことで、安全配慮義務の再認識や業務改善が促進され、平成25年度も次のステップに向けて実施しています。また、平成25年度に実施した日常生活アンケートでは、ストレス状況の高い人や禁煙希望者を把握し集約することで、ストレス対応の支援や個別禁煙サポートにつながっています。
アンケート実施状況
項目 | 対象 | 内 容 |
---|---|---|
こころの健康状態アンケート (平成17年度) |
無作為抽出 1,000人 |
「心の健康づくり」策定のため、職員のメンタルヘルスについて実態調査。質問内容は健康調査チーム部会で検討 |
職員健康相談室の名称募集 (平成22年度) |
全職員 | 職員健康相談室の親しみやすい名称を募集し「ほっとるーむ」に決定。名称募集で相談室の認知度が上がり、相談件数が増加 |
所属の安全衛生状態の調査 (平成24年度) |
巡回先の 所属長 |
職場巡回に合わせて、職場環境や職員の健康状態に対する所属長の把握状況を調査 |
長時間労働による健康障害の防止に関するアンケート (平成24・25年度) |
一定時間以上の長時間勤務者がいる所属長 | 長時間勤務者に対する所属長の把握・対策状況について調査。結果については各所属長にフィードバック |
日常生活アンケート (平成25年度) |
全職員 | ストレス状況や無呼吸症候群、禁煙希望について調査。禁煙希望についてはサポートの2次調査後、個別サポートを実施 |
3 少人数の学習会でメンタルヘルスへの理解を促進
市ではメンタルヘルスについて、人材育成室が新任課長研修において研修を行うほか、希望職員に対して研修を実施していますが、職員健康室でも日常的にメンタルヘルスへの理解促進を図る必要があると考えています。武市室長はこう語ります。「市でもメンタルヘルス不調者が目立ってきた状況の中で、不調者の早期発見・早期対応を図るには、日常的にメンタルヘルスの知識を普及することと、産業保健スタッフにつなぎやすくすることが必要だと考えています。それで、平成25年度に産業カウンセラーに係る予算措置がされましたので、少人数で気軽に参加してもらう学習会を始めることにしました。」
この学習会は毎月1回7名の枠で1日2枠、課長級職員と係長級職員の希望者を対象に、それぞれメンタルヘルス相談担当の産業カウンセラーが講師となって実施されています。そして、現在行われている基本研修制度のメンタルヘルス研修を含め、メンタルヘルスに対する意識・知識の向上の役割を果たしています。
メンタルヘルス学習会の概要
対象 | 開催日 | 概 要 |
---|---|---|
新任以外の 課長級 |
原則 月1回 |
・個別メールで周知 ・ラインケアの知識向上を図る ・管理職との情報共有を促進 |
係長級 | ・個別メールで周知 ・セルフケアの知識向上を図る ・中堅職員の不調を防止 |
職員健康室副主幹で保健師の辻 惠子氏は「以前は職員が休む直前の相談が多い状況でした。しかし、今は学習会で顔見知りになった課長が『不調そうな職員がいるがどうしたらよいか』と早めに相談に来てくれるようになりました。」と学習会の効果を語りました。学習会は職員にとって敷居の高かった「ほっとるーむ」を身近なものにするとともに、産業カウンセラー等への理解を促進しています。年々「ほっとるーむ」への相談件数は増加しており、不調者の早期発見・早期対応につながっています。
学習会が行われる明るく落ち着いた雰囲気の「ほっとるーむ」(職員健康相談室)
アドバイザーより一言
公務災害について分析し、原因に応じた助言を行うことで、一定の部局での事故の減少が図られるなど、積極的に公務災害に対応しています。一層の災害減少を図るため、さらに詳細な公務災害の分析・対策をお勧めします。
衛生活動では、定期健康診断に合わせた「日常生活アンケート」で禁煙希望の職員を把握し、ピンポイントで禁煙を勧めたり、職員から職員健康相談室の名称を募集して「ほっとるーむ」と決定し、親しみやすい場所とするなど、経費の厳しい状況での工夫した取り組みに感心しました。
メンタルヘルス対策では、頻繁に少人数の学習会を「ほっとるーむ」で開催することが、「ほっとるーむ」の周知や産業カウンセラー等の健康管理スタッフと面識を持つ機会となり、参加者のメンタルヘルス相談の増加につながっています。
今後も職場の状況を踏まえ、工夫をした安全衛生活動を進められることを期待します。
中央労働災害防止協会 近畿安全衛生サービスセンター
安全管理士 松下 和彦