Report3 Tottori Prefecture
好事例をヨコ展開し安全衛生活動を活性化 鳥取県
取り組みのポイント
- 安全衛生データベースで情報を共有化
- 巡視チェックリストはソフト・ハード両面を網羅
- 事例報告を通じて委員会活動をヨコ展開
- 安全・衛生委員会を活用した公用車事故防止対策
平成21年3月、鳥取県では職員が死亡する重大な事故が発生しました。「悲惨な事故を二度と起こしてはならない」、県は直ちに安全衛生活動の強化・充実に向けて動き出します。安全衛生の仕組みづくり、活動の活性化等のテーマを段階的に設定した取り組みは、現在第3期目に入り、活動の維持・定着に向け各施策が展開されています。今回は、重大事故を契機に、安全衛生の活性化を推進する鳥取県の取り組みを紹介します。
1 安全衛生活動の活性化に向けた第一歩
鳥取県は事故直後、全所属を対象とした危険箇所の緊急点検を実施。危険性のある場所については、修繕を施すなど改善を図りました。そして、これで終わりにすることなく、継続的に安全衛生活動を実施していくための取り組みを展開します。
元々、衛生面での取り組みは充実していた同県。「メンタルやパワハラ等に関する相談業務、階層別研修、所属向け出前講座等の取り組みを全庁的に実施していました。一方、安全面の活動は、事業場単位を基本に実施され、内容にもばらつきが見られました。とりわけ事務系の所属では、なにをすればいいのかわからない、そんな状況でした。」と保健師で福利厚生課課長補佐の角野 幸惠氏は当時の様子を語ります。こうした状況の中で、県は安全衛生活動の活性化に向けた第一歩を踏み出します。
安全衛生活動活性化に向けた取り組み(第1期)の概要
最初に取り組んだのは、「安全衛生の形や仕組みづくりと意識啓発」です。安全・衛生委員会の設置や衛生管理者の選任など法令で規定された形はあっても、十分に機能していない。そこで、推進体制や担当者の明確化に着手します。その一環として、県は安全衛生データベース(以下「DB」という。)を独自に構築。職員ポータル上で運営されるDBに、所属ごとに衛生推進者等の担当者名等を入力させ、体制の明確化と周知を図りました。このDBは以後、県の安全衛生活動の基本ツールとして充実、発展していきます。
また、所属が主体となった職場巡視を実施できるよう、チェックリストを作成。チェック項目の中には、ハード面だけでなく、「必要な会話はあるか」「サポート体制はあるか」等のソフト面も取り入れるなど、安全、衛生両面から評価する特徴的な取り組みです。さらに、研修や職場巡視の質を高めるため、労働安全衛生の専門機関である中央労働災害防止協会に講師や巡視を依頼するなど、職場外資源の積極的な活用を図ります。
このように、県はさまざまな施策を展開。「考えているよりも、まずは行動」そうした姿勢のもとで、第1期目の取り組みは進められました。
福利厚生課の入口に掲げられた安全旗
外部の専門家を講師に迎えた安全衛生研修会。
壇上横に安全旗が掲げられる
2 安全衛生活動の意味づけと活性化、活動の維持・定着へ
平成21年度から3年間かけて形づくりに取り組んだ鳥取県。安全対策を推進する体制は整った、所属の意識も徐々に変わってきた、次は内容を充実させたい。そこで、県は平成24年度から、第2期の取り組みを展開します。重点的に取り組んだのは「安全・衛生委員会開催の定着化」です。そのためには、職員が活動の意味を理解する必要がある、そう考えた県は、委員会開催の必要性や運営方法等の資料を作成し、各職場に配付しました。しかし、思うような成果は上がりません。アンケートをとると「イメージが湧かない」そうした意見が多くあったといいます。
「活動の意味をしっかり伝えたい」と語る角野補佐
なんとかしなければと福利厚生課が動きます。取り組みが遅れている委員会にオブザーバーとして参加し、運営を支援することとしました。「福利厚生課が関わることで好事例をつくりあげ、ヨコ展開を図りたい、そういう狙いもありました。」と語る角野補佐。オブザーバーとして、議題の決め方、会議資料の内容、進行の仕方など技術的な助言とともに、何のために行うのか、なぜ必要なのかを職員と一緒に話し合ったといいます。その結果、委員の意見も活発になり、自分たちで考え、主体的に取り組む姿勢も見え始めました。
鳥取県安全衛生管理体制
この成果を一事業場限りで終わらせてはならない。そう考えた県は、各委員会を統括する「総合安全衛生連絡協議会」等において、実践報告の場を設定。県全体へとヨコ展開を図ります。捉えどころのなかった委員会のイメージを、どのように形にしていったのか、当事者の声を通じて定期的に紹介。その上で、各委員会に対して、開催回数の目標設定や実施状況の報告を義務づけるとともに、全庁共通のテーマを設け協議させるなど、委員会活動の促進、標準化に努めました。
安全衛生活動活性化に向けた取り組み(第2期)の概要
さらに、DBの運用も強化。各事業場や所属が委員会開催状況や職場巡視状況等を随時DBに入力することをルール化しました。また、本庁衛生委員会の職場巡視については、写真とともに福利厚生課がコメントを付してDBに結果を掲載するなど、ヨコ展開を意識した情報提供、情報共有の徹底を図りました。
事例報告の様子
DBトップ画面。所属は適宜状況を入力。
他の所属の事例や法令等の情報も掲載
第1期、2期の取り組みを通じて、県の安全衛生活動の内容は強化・充実が図られました。これを継続・定着させるため、平成27年度から、県の取り組みは第3期に入ります。テーマは「活動の維持と更なる活性化」。人事異動等で人が代わっても、職場巡視や研修を繰り返し実践できる体制の構築を目指します。「そのためにも、オブザーバー参加などあらゆる機会を通じて、安全衛生管理の意義や重要性、県の取り組みの経緯等を職員に粘り強く伝えていきたい。」と角野補佐は意気込みを語ってくれました。こうした地道な取り組みを絶え間なく展開していくことで、県は安全衛生の更なる向上に努めています。
安全衛生活動活性化に向けた取り組み(第3期)の概要
3 公用車事故防止対策を各事業場委員会で検討
鳥取県では、公用車事故防止対策として、無事故・無違反所属の認定・公表、ドライブレコーダーの設置等、さまざまな取り組み実施していますが、事故件数はここ数年、横ばいで推移しています。こうした中、平成28年度、県は民間事業者等の知恵を借り、より詳細な分析、対策を検討する新たな試みをスタートさせました。
「まず、タクシー事業者と運送事業者にヒアリングを実施しました。」そう語る福利厚生課課長補佐の細谷 晴彦氏。多くのドライバーが自身の経験から「慣れによる安全確認不足」の危険性を指摘したといいます。県はさっそく、過去の事故状況を調査します。軽い接触事故など軽微なものが多く、そうした事故を起こした職員の大半が免許取得歴10年以上のベテランドライバーでした。「経験不足ではなく、むしろ慣れが安全を怠ったのでは。そう考えると、交通事業者等のヒアリング結果と合致します。」と細谷補佐は言います。
無事故・無違反の継続日数を執務室入口に掲示
では、どうすれば慣れによる安全確認不足を排除できるのか。自動車学校と意見交換を行う中で、①自分の運転特性、傾向を知る②車の特性(死角等)を知る③車の性能限界と自分の運転限界を知る、この3点の重要性を確認します。これを繰り返し学習するしかない、県は、「安全運転マイスター研修」を企画しました。
同研修は、自動車学校から講師と教習コースの提供を受け、衝突回避訓練などの実技を含めた研修をモデル的に実施するものです。特徴的なのは、推進主体として、安全・衛生委員会を位置づけたこと。各委員会から職員2名が代表で研修に参加し、研修後は、委員会を通じて職員に伝達します。どのように職員に浸透させるのか、委員会はその手法も含め検討し、結果を総合安全衛生連絡協議会に報告。その結果を踏まえ、よりよい手法を全庁で検討していくこととしています。
「皆で話し合う場が必要でした。安全・衛生委員会が職場に根づき、いろいろな問題を協議できるようになったことが大きい。」と細谷補佐は評価します。安全・衛生委員会は安全衛生活動の要。その考えが、公用車事故防止対策にもしっかりと活かされています。
「所属・職員が一丸となって取り組んでいます」と語る細谷補佐
アドバイザーより一言
安全衛生活動を効果的に進めていくために、安全・衛生委員会を中心に推進されています。委員会運営のイメージができない部署には、福利厚生課職員がオブザーバーとして参加しアドバイスをされていることは良好です。毎月開催する事業場が増えてきており、今後もフォローを継続することをお勧めいたします。
事例報告や安全衛生情報のデータベース化等により情報共有を徹底し、ヨコ展開、レベルアップにつなげています。
公用車事故防止対策では、民間事業者の知恵を活用、安全・衛生委員会を中心とした「安全運転マイスター研修」を企画など、所属・職員が一丸となって取り組まれています。
福利厚生課の方々の安全衛生に対する熱い思いが職場に伝わり、実のある活動につながっていると確信しました。今後の更なる活動を期待しています。
中央労働災害防止協会 中国四国安全衛生サービスセンター
安全管理士 岡﨑 隆夫