Report14 Nishinomiya City
現場業務の事業場がけん引する安全衛生 西宮市
取り組みのポイント
- 安全衛生会議、専門部会など多層的な安全衛生管理体制により、きめ細かな活動を実施
- 月1回の委員会開催や安全標語募集、産業医による職場巡視などを現場業務の事業場が実施
- 保健師の増員など健康管理室の体制を強化しメンタルヘルス対策を実施
西宮市では、安全衛生委員会に上下の組織を設ける多層的な体制で、事業場単位の取り組みと全庁的な取り組みがバランスよく実施されています。特に、上下水道局など現場業務の事業場では、毎月の委員会開催など法令に則った取り組みが適切に実施されており、安全衛生全体の活性化につながっています。また、メンタルヘルス対策では実働部隊である健康管理室の周知を図りながら、各種相談対応や復職支援等を実施し、この問題の改善に努めています。こうした西宮市の安全衛生の取り組みを紹介します。
1 多層的な管理体制で安全衛生を推進
西宮市の安全衛生は、市長部局、消防局、教育委員会、上下水道局、市立病院の5部門に分かれ、それぞれが異なる安全衛生管理規程のもとで運営されています。このうち、市長部局では、市職員安全衛生規程に基づき4つの委員会を設置。環境事業部(ごみ収集)、環境施設部(ごみ処理)、保健所に各事業場委員会を設置し、それ以外の事業場を市職員安全衛生委員会と総称しています。
西宮市安全衛生管理体制
市委員会は、職員約1,900人を対象とする大規模な事業場です。出先機関も多数抱えるなど、各職場を一括管理することは困難なこと等から、同委員会では、必要に応じて委員会の下部組織として「専門部会」を設置できると定めています。これに基づき、現在、市委員会には「福祉施設専門部会」が設けられるなど、業務特性等に応じたきめ細かな運用を行う体制が整備されています。
また、各委員会の上位機関としては、「安全衛生会議」が設けられています。人事課長の首藤 一弘氏はその役割について、「安全衛生会議では、全庁に関する事項の報告や意見交換等を行います。任命権者の異なる教育委員会や上下水道局、市立病院等の委員会の代表もオブザーバーとして参加するなど、部局の枠組みを超えた連絡調整、情報共有の機能を果たしています。」と語りました。
同会議では、健康診断やメンタルヘルス対策等の周知、職場巡視など各事業場の活動報告等が行われ、委員会全体の活性化につながっています。このような多層的な体制を適切に運用し、市は安全衛生の一層の向上を図っています。
市の安全衛生管理体制について語る首藤課長
2 委員会の毎月開催など現場業務の事業場の取り組み
市の安全衛生は、事業場単位を基本とした取り組みを展開することで、上下水道や清掃部門等の現場業務を行う事業場で様々な活動が独自に展開されています。例えば、上下水道局安全衛生委員会では、委員会の毎月開催や安全衛生標語の募集、産業医による職場巡視などが実施されています。上下水道局上下水道総務課人事チーム係長の市野 昌靖氏は「委員会の毎月開催を当然と考え、以前から実施しています。日程調整や議事録作成など事務方の負担はありますが、たとえ30分でも、委員が集まり、現状の確認や情報提供・共有を図ることが重要です。定期的に集まって連絡をとっていれば、いざ何かあった場合でも迅速に対応できます。」と毎月開催の意義を語りました。
上下水道局委員会の事務を担当する市野係長
上下水道局安全衛生委員会では、毎年6月に局内で安全標語の募集を行っています。これは、全国安全週間行事の一環として、安全の重要性について考え、安全意識を高めるために実施しているもので、入賞作のポスターを作成し、全職場で掲示しています。
他にも、ヒヤリハットやKYT等の推進に取り組んでいますが、これらの活動は、学校給食や環境施設部、消防などの現場業務の事業場委員会で積極的に実施されています。
標語の入賞作は各職場に掲示される
また、ごみ収集業務を行う環境事業部安全衛生委員会では、労働安全衛生に関する様々なトピック・情報を盛り込んだ「おはよう820」を定期的に発行しています。始業時間である8時20分から命名され、庁内イントラネット上で発信される情報は、環境事業部内に留まらず、全庁向けの注意喚起対策として定着しています。こうした現場の力が市の安全衛生全体の底上げを図っています。
環境事業部委員会が発行する
「おはよう820」
産業医による職場巡視の様子
3 健康管理室が奮闘するメンタルヘルス対策
市では、病休者全体に占める精神疾患による者の割合が高い水準で推移しているなど、メンタルヘルスへの対応が大きな課題となっていることから、保健師の増員を図り、メンタルヘルス対策を強化しました。実働部隊となるのが人事課健康管理室です。人事課健康管理室チーム係長の髙橋 智江氏は「健康管理室では、平成23年度に保健師を1名増員し、現行の2名体制となったことで、よりきめ細かな相談対応が図られています。また、一人でも多くの職員に健康管理室を知ってもらうため、健康診断や保健指導等の業務の際には、健康管理室のPRもあわせて行っています。」と語りました。こうした取り組みの効果が、近年の相談利用件数の増加につながり、早期発見・早期対応等に結びついています。
「休職に入らないための事前対応を心がけています」と語る髙橋係長
また、健康管理室では、産業医等と連携し、リワークプログラムの利用による円滑な職場復帰支援を積極的に実施しています。取り組みの概要について、髙橋係長は「復職へのステップとしてリワークは重要ですが、本人にその気持ちがなければうまくいきません。このため、必要と思われる職員には、保健師がリワークを利用した復職プロセスを一緒に考え、粘り強く助言を行っています。」と語りました。これまで、リワークを利用した職員で、復職後に再休職に至ったケースはなく、所属からも一定の評価を得ています。
こうした取り組み等により、平成26年度のメンタルヘルス不調を原因とする市の休職者数は平成25年度に比べ約2割減少しています。首藤人事課長はこう語ります。「ようやく効果が見え始めたと感じています。相談件数は増えていますが、これが予防的な効果につながっているのではないでしょうか。今後も健康管理室を中心に、やれることは何でもやるという意気込みでこの問題に対応していきます。」
メンタルヘルス対策の概要
アドバイザーより一言
各事業場の安全衛生委員会の上部組織として安全衛生会議を設け、市全体の健康診断、長時間労働対策、安全衛生行事や各委員会の取り組みの紹介などを行い、安全衛生に関する各部署の活性化を図っています。
各委員会の中では、環境事業部など現場業務の委員会では部独自の広報誌を発行し、公務災害防止や安全衛生活動の周知を行うなど、積極的な活動を展開しています。
メンタルヘルス対策では、人事課健康管理室に配置された2名の保健師が中心となって相談対応や復職支援などの対策を熱心に実施しています。健康管理室は健康相談と並行し、喫煙対策として禁煙相談等を実施していますが、スモーカーライザーによる測定は、職員の関心も高く効果を上げています。
今後は、メンタルヘルス相談などについて、相談者が気軽に利用できるように、随時性、匿名性をより確保できる相談窓口を利用できるような環境を検討することをお勧めします。
中央労働災害防止協会 近畿安全衛生サービスセンター
安全衛生管理士 柏 洋一