Report6 Kofu City
課題解決に向け着実に安全衛生を推進 甲府市
取り組みのポイント
- 職場の安全をテーマとした研修の実施など安全を重視した対策を推進
- 多様な職場に対応したチェックリストを作成し工事現場を含めた巡視を実施
- 相談窓口を職員健康係長に一元化し回復状況に応じた3段階の職場復帰訓練を実施
甲府市は、デスクワーク系作業が多い市職員安全衛生委員会においても、職場の安全をテーマとした研修会を毎年度実施するなど、職員の安全意識の向上に努めています。また、あらゆる職場の巡視に対応できるよう、工事現場を含めた多様なチェックリストを作成したり、長期休業者の確実な職場復帰に向け、回復状況に応じた3段階の訓練を新たに導入したりするなど、課題解決のために、手間を惜しまず丁寧な対応を実践しています。こうした安全重視とともに、きめ細かな対応で安全衛生を進める甲府市の取り組みを紹介します。
1 安全の視点を重視した活動の展開
甲府市では、「職員」、「教育委員会」、「上下水道局」の3つの安全衛生管理規則(規程)に基づき、7つの安全・衛生委員会を設置しています。各委員会の区分ごとに総括安全衛生管理者や安全管理者、衛生管理者が設けられ、職員の安全と健康や公務災害の防止に関する事項の調査、審議等の活動が展開されています。
甲府市安全衛生管理体制
写真とキャプション
特徴的なことは、各委員会で安全対策に係る取り組みが積極的に実施されていること。例えば、市環境部職員安全衛生委員会では、焼却工場職場安全検討会を月1回開催し、作業現場・設備・機械などに対する安全対策の確認等が行われています。また、環境部と同様、現場を抱える給食事業所や上下水道局でも、作業の安全化や安全教育の実施などを独自に展開しています。
こうした安全を重視する姿勢は、市職員安全衛生委員会のように、本庁舎の職員を多く抱える事業場においても変わりません。安全衛生研修はどちらかといえば、メンタルヘルスなどの健康管理を中心とした内容に偏る傾向にありますが、同委員会では、メンタルヘルス研修とは別に、職場の安全対策をテーマとした研修会を毎年度実施しています。
平成27年度は、特定社会保険労務士を講師に招き、「ヒューマンエラー」や「KYT(危険予知訓練)」などの安全対策について学びました。この研修の目的について、人事管理室研修厚生課職員健康係長の山本 和弘氏は「公務災害が起きていない職場であっても、職員の身近に危険は潜んでいます。そのことを認識してもらい、職場でできる安全対策を講じてもらうことがねらいです。実際に、通勤途上も含めて転倒災害が多く発生しています。KYTなどは各職場で積極的に取り入れてほしいですね。」と語りました。
安全衛生研修について語る山本係長
研修概要については、「職員安全衛生委員会ニュース」に掲載し、広く職員に情報提供しています。また、こうした研修情報の提供のほか、災害関係の情報提供も行っており、災害が多発した場合などは、情報を庁内LANに掲載し、職員に向けて注意を喚起します。冬季には、雪による転倒、公用車等によるスリップなど、公務中や通勤途上での災害が懸念されることから、気象情報に注意し、降雪が予想される場合等には早めに庁内LANで注意を促しています。市ではこのような安全の視点からの対策を通じて、職員の意識向上を図り、公務災害防止に努めています。
2 チェックリストを活用し工事現場を含めた職場巡視を実施
一般的に地方公共団体が設ける職員安全衛生委員会は、他の委員会に属さない全ての職場を対象とする形態をとっています。このため、本庁舎のほかに、保育所や公民館なども所管する場合は、委員会として全ての職場を巡視することが難しく、巡視場所が本庁舎に限定されるケースも見受けられます。こうした中、甲府市職員安全衛生委員会では、各職場の特性に応じた職場巡視チェックリストを作成することで、職場に応じた効果的な巡視を可能としています。
チェックリストの種類は多岐にわたります。例えば、建設部のように道路建設や補修の現場を抱える部署については、執務室用とは別に工事現場用のチェックリストを作成するなど、その徹底ぶりには目を見張るものがあります。実際、建設部を対象とした巡視では、このチェックリストをもとに、委員が工事現場に出向き、作業環境等のチェックを行っています。
保育所の職場巡視の様子
巡視の結果は、同日開催される委員会の中で報告され、その後、職場にもフィードバックされます。また、安全衛生委員会ニュースにも概要を掲載するなど、広く職員に情報提供が行われています。現場用チェックリストまで作成する丁寧できめ細かな対応や工事現場を含めた職場巡視など、その積極的な取り組みは、公務災害防止に向けた市の強い意気込みを感じさせます。
3 確実な職場復帰を目指して復職支援の取り組みを拡充
メンタルヘルスに起因する長期休業者が増加傾向にあるなど、地方公共団体におけるメンタルヘルスの問題は職場の安全衛生対策の基幹となっています。甲府市でも、平成17年度から、長期休業者の職場復帰支援の一環として職場復帰訓練を実施していますが、平成27年度にはこの取り組みを大幅に強化しました。保健師で人事管理室研修厚生課職員健康係長の深沢 恵氏は「これまでは、ならし勤務である『職場訓練』を基本とした支援内容でしたが、長期休業後すぐに職場訓練に入ったため、無理をし過ぎて再び病状を悪化させる職員が見受けられました。そこで、職場訓練の前段階として、新たに『通勤訓練』と『リハビリ訓練』を導入し、病状の回復状況に応じた支援を実施することとしました。」と制度拡充の経緯を語りました。
職場復帰訓練について語る深沢係長
職場復帰に向けた支援はまず、通勤訓練における規則的な通所から開始されます。ここで、日常生活や病状の報告、健康相談等を実施することにより、体調維持やストレス等の自己コントロールに取り組み、就業を想定した社会生活リズムを整えます。次のリハビリ訓練では、職場訓練に向けた準備として、簡単な作業処理や文書管理システム操作練習などを行い、集中力・継続力を高めます。
特徴的なのは、通勤訓練及びリハビリ訓練の場所を、本庁舎から離れた場所にある「市自治研修センター」としていること。これは、他の職員に会うことなく、落ち着いて訓練に臨んでもらえるようにと配慮したものです。研修センターへは、この制度において「支援員」として位置づけられている職員健康係の深沢係長と山本係長が交代で出向き、職員の指導・助言を行っています。
また、ならし勤務である職場訓練は、通勤・リハビリという2つの訓練を経た後で行われます。ここでは、所属での段階的な就業実習により、必要とされる職務遂行能力の回復を図ります。
職場復帰支援のフロー
さらに、復帰後も職員との面談を定期的に実施することにより、出勤状況や治療状況、健康状態を確認して必要な助言を行うとともに、復職先の所属長や産業医、医療機関等と十分な連携を図りながらフォローアップに努めています。
制度が拡充されてから、まだ半年を経過したばかりですが、現在のところ、利用した職員全員が復職を果たしているといいます。甲府市の職場復帰訓練制度は、深沢係長と山本係長を中心とした相談・支援対応により、その効果が着実に現れてきています。
アドバイザーより一言
安全・衛生委員会では、各委員から活発に意見等が出ており有効な審議が行われています。その結果は「安全衛生委員会ニュース」によってダイジェスト版の形で分かりやすく全職員に周知・啓発が行われています。さらに、委員会が主催で職員対象の安全衛生研修会を実施している点も特徴的です。
委員会メンバーによる職場巡視の実施に当たっては、事前に巡視先の職場ごとにチェックリストを作成し、漏れの無い効率的な巡視が行えるよう工夫されています。
職場復帰支援については、「職場復帰訓練実施要領」に基づいた大変丁寧な対応がとられています。訓練の充実を図ることにより、復帰後の再発防止に効果が現れだしています。
長時間労働の対策については、今般導入されるストレスチェックの結果も生かし、個々人の課題に対するケアを実施するとともに、職場の課題にも目を向けた取り組みを行ってください。嘱託職員についても、階層別教育等により安全意識を醸成する機会をできるだけ設けるように配慮してください。
中央労働災害防止協会 関東安全衛生サービスセンター
安全・衛生管理士 須田 核太郎