Report7 Kawaguchi City
共有を進める取り組みで安全衛生を向上 川口市
取り組みのポイント
- 安全・衛生委員会に保健師がオブザーバーとして出席し情報共有を推進
- ゼロ災害、ゼロ疾病をうたった公務災害防止対策実施要領の策定等により公務災害防止を推進
- 改正労働安全衛生法に沿うメンタルヘルス診断や新規採用職員を効果的に育成するメンター制度
川口市では、職域保健師が各安全・衛生委員会にオブザーバーとして出席し、横断的な情報共有を図っています。また、ゼロ災害・ゼロ疾病を目指す公務災害防止対策実施要領を策定し、災害事例を共有して公務災害の未然防止に取り組んでいます。さらに、改正労働安全衛生法に沿った全職員へのメンタルヘルス診断と組織分析を実施しているほか、メンター制度では指導担当者と目標を共有することで、新規採用職員の効果的な育成が行われています。こうした共有を進めて安全衛生の向上を図る川口市の取り組みを紹介します。
1 安全・衛生委員会への保健師出席による情報共有
市では9つの安全・衛生委員会を設置していますが、職員課に配置された2人の保健師が複数の委員会にオブザーバーとして出席しています。保健師で職員課厚生係の田辺 香苗氏は「国は平成18年に過重労働による健康障害防止のための総合対策の通知を出しましたので、市でも取り組みを検討することになりました。しかし、過重労働が多い職員の健康状況などの情報を持っているのは、職員課の保健師だけでした。そこで、各委員会からオブザーバーとして出席するよう依頼がくるようになりました。」と出席の経緯を語りました。
全庁を飛び回る保健師で職員課厚生係の田辺氏(左)と諸橋 幸子氏(右)
平成18年度以降、定期健康診断の結果や過重労働等によるハイリスク者の状況等が議事となるときは、オブザーバーで出席している保健師が現状を説明するとともに、的確なアドバイスを行っています。また、保健師が各委員会の情報を持ち帰ることにより、職員課ではぞれぞれの委員会の活動状況を把握できるため、各委員会を横断的につなぐ役割も果たしています。
川口市安全衛生管理体制
2 ゼロ災害、ゼロ疾病を目標に公務災害防止対策実施要領を策定
平成18年度から平成20年度までの市の公務災害件数(通勤災害を除く。以下同じ。)は、さまざまな取り組みを行っていたものの増加していました。このため、本庁舎安全衛生委員会と市で検討を重ねた結果、市独自の公務災害防止対策報告書を作成し、各安全・衛生委員会や職員が情報共有することで、公務災害防止を図ることになりました。そして、実施方法をまとめた公務災害防止対策実施要領を策定し、平成23年度から取り組んでいます。
災害が発生した場合、被災職員の所属長は原因や再発防止対策の検討結果を公務災害防止対策報告書に取りまとめて、所属を所管する公務災害事務担当者に提出します。報告書は担当者から各安全・衛生委員会に提出され、必要な場合は全庁的に周知して、特に類似の公務災害に対して未然防止の意識啓発を図ります。
実施要領における手続き等の流れ
この要領は、趣旨で「職員全員が一切の公務災害を許さずゼロ災害、ゼロ疾病を究極の目標」に掲げており、災害・疾病を許容しないことがうたわれています。また、全ての職場においてゼロ災害、ゼロ疾病を実現するために、臨時職員等を含む全職員が対象となっています。職員課厚生係の廣瀬 嘉洋氏は「公務災害は事務以外の現場のある事業場に多いので、再発防止のために被災職員の係内でよく話し合い、各委員会内で事案を検討・共有することで類似災害の防止に役立てています。」と取り組みの効果を語りました。
各委員会の取り組みとこの報告書による意識啓発が相まって、平成25年度の市全体の公務災害発生件数は平成20年度に比べて約6割減少しています。
安全衛生の向上に力を尽くす職員課課長補佐兼厚生係長の太田 晃氏(右)と廣瀬氏(左)
3 全職員へのメンタルヘルス診断と組織分析を実施
市では、平成22年度から職員全員のメンタルヘルス診断を実施しています。その経緯について田辺氏はこう語りました。「メンタルヘルス不調による長期の病休者等が、ここ10年くらいは増加傾向にありました。そこで、平成22年度から職員全員のメンタルヘルス診断と組織分析を外部委託で行うことにしました。実施にあたっては個人結果のほかに組織分析を行って改善点を探り、不調者が生じにくい組織環境づくりに取り組みたいと考えました。」
診断前には全所属の係長に実施説明とあわせてメンタルヘルスの基礎的な研修を行い、診断後には全所属長に結果説明会を兼ねた管理職研修を開催して、管理監督者に効果的な理解促進を図っています。さらに、高ストレス結果の所属には個別説明が実施されています。
なお、メンタルヘルス診断は、平成22年度は市と職員互助会が2分の1ずつ経費を負担しましたが、平成23年度からは全額市の負担で実施されています。改正労働安全衛生法のストレスチェックを先取りした取り組み等により、市のメンタルヘルス不調による長期病休者の割合は、全国平均を下回る率で推移しています。
メンタルヘルス診断実施フロー
4 メンター制度により新規採用職員を効果的に育成
市では新規採用職員に対して、早く職場に適応できるよう効果的で適切な指導を行い、継続的な能力アップを図るため、平成17年度からメンター制度を実施しています。指導担当者であるメンターには、新規採用職員の指導を通じてメンター自身の成長も促すために、新規採用職員が配属される係内の若い職員が選ばれています。メンターとメンティ(新規採用職員)は相談しながらフレッシャーズメンターシートに目標を設定し、到達点の共有を図ります。そして、6か月間シートに月ごとのメンティの感想とメンターのコメント等が書き込まれることで、達成状況の確認が行われます。
メンター制度は計画的なOJTを推進するものですが、悩みを聞いてもらえることで入庁間もない不安な時期を大事なく乗り越えられる等の意見がメンティから聞かれており、新規採用職員が悩みを抱え込む前に解決できるなどメンタルヘルスマネジメントにも寄与しています。
アドバイザーより一言
年間計画により安全衛生活動が実施され、進捗は安全・衛生委員会で審議し、改善を図っています。また、公務災害防止対策実施要領に基づく公務災害防止対策報告書の事案は、各委員会で再発防止策の検討と水平展開が行われており、近年の災害減少はこの活動の効果と思われます。メンタルヘルス対策では、全職員へのメンタルヘルス診断を実施し、組織分析を行って高ストレス部署には個別説明するなど、改正労働安全衛生法に沿った先取りの対応をしています。
今後は、年間計画に数値目標を設定し達成度を測ることや、危険状態発生の未然防止のためのヒヤリ・ハットの収集と水平展開並びに一層の類似災害の発生防止のため公務災害一覧表への発生原因、再発防止対策及び被害の重篤度等の記載と周知が望まれます。
中央労働災害防止協会 関東安全衛生サービスセンター
安全管理士 藤原 伸郎