Report2 Kasukabe City
方向転換と迅速な行動で安全衛生の向上を 春日部市
取り組みのポイント
- 専門スタッフの増員が見込めないなか、人事課の事務職員が休職を繰り返すメンタルヘルス不調者の復職支援を構築し運用
- 全国労働衛生週間にあわせて市独自の取り組みを実施
春日部市は、平成24年度の一般行政部門における人口1万人当たりの職員数は、全国の市の中で最小規模の水準でした。市では、第2次春日部市行政改革大綱により、効率的で効果的な行政運営を進めていますが、限られた人材と財源の中で、一層の安全衛生の向上を図る春日部市の取り組みを紹介します。
1 メンタルヘルス不調による休職者への対応方針を変更
地方公共団体が置かれている厳しい状況を反映してか、地方公務員の長期病休者数に占める、いわゆるメンタルヘルス不調者は増加傾向(※)にあります。春日部市でも病気休職者に占める精神的疾患の割合が増加しています。
※「地方公務員 健康状況等の現況」((一財)地方公務員安全衛生推進協会、平成25年11月発刊)では、「精神及び行動の障害」の長期病休者数(10万人率)に占める割合が増加し、初めて50%を超えました。
とりわけ市を悩ませていたのは、休職・復職を繰り返すメンタルヘルス不調者でした。主治医の判断に従って復職させても、また休職してしまう…。人事課は、不調者の苦悩も感じつつ、他の職員が苦労している厳しい現状を目の当たりにします。
人事課給与厚生担当課長の齋藤 綱紀氏は語ります。「この状態で復職させて仕事ができるのだろうかと疑問を持ちながらも、主治医の診断書に従って復職させていました。しかし、数か月でまた休んでしまうと、本人も大変ですが、まわりの同僚達もカバーするのに大変です。そんな様子を見て、何とかしたいと考えていました。」
休職の繰り返しを防ぐためには、まず自分達がメンタルヘルスについて深く理解しなければならないと考えた齋藤課長は、平成22年度から積極的に外部研修に参加し、メンタルヘルスに関する知識を深めていきました。
「私達はケースワーカーのつもりで動いて
います」と熱心に取り組みを語る齋藤課長
休職の繰り返しに対して、本腰を入れて対策を考える齋藤課長に転機が訪れます。平成22年度に外部研修で岡山大学の高尾総司先生の講義を受け、「業務遂行レベルに着目した新しいメンタルヘルス対応」を学び、きちんと業務ができる状態か否かで復職を判断する方向に変えようと考えたのです。齋藤課長はこう語ります。「復職させるには、きちんと業務ができる状態でなければと思いながらも、その判断基準がありませんでした。復職はきちんと業務ができる状態かどうかを人事部門が判断して決めるべきとの高尾先生の話を聴いて、この方法で行こうと考えました。」
2 事務職員が復職支援を構築し運用
復職は業務遂行の能力が回復した場合に認める方向に転換し、平成23年度から、復職の流れに人事課と所属長の両者が業務遂行の能力回復を確認する仕組みを組み込んでいきました。
まず、復職の見込みが出てきた休職者については、主治医が復帰可能の診断を出す前に主治医と面会して、一定レベルの業務ができる状態に回復しているか確認することとしました。齋藤課長は「主治医の中には、なぜ君たちに意見されるのかとおっしゃる方もいましたが、こちらも経験を積んで、このまま復職させてもうまくいかないことが分かっていますので、ひるむことなく主治医に市の復職プロセスを伝えています。」と語りました。
また、リワークは業務遂行の能力回復に効果が期待できるとの考えから、休職を繰り返す職員にはリワークを取り入れるとともに、リワークのスタッフに支援プログラムの取り組み状況について確認しています。
人事課給与厚生担当主幹の添田 智則氏は語ります。「例えばリワークでは、スタッフと進行状況を確認しながら、このまま進めていいのか、もしくは延長や一時中断を考えたほうがいいのか。我々は事務系の職員なので、作業療法士や看護師に確認しながら、一歩一歩進めています。」
「スムーズな復職には欠かせません」
とリワークの効果を語る添田主幹
こうして、人事課の事務職員が中心となってメンタルヘルスに対する知識・経験を積むなかで、メンタルヘルス不調の再発防止を図るために、産業医等と連携を図りながら業務遂行の能力回復の確認とリワークを組み込んだ復職支援の流れを構築し、運用しています。
復職支援の流れ(休職を繰り返す職員が復職する場合)
プロセス | 確認等の具体的内容 |
---|---|
①主治医の診断 | 主治医と面会し、リワークや職場復帰訓練の実施の可否を確認 |
②リワーク | スタッフと面会し、ほぼ100%できているか確認 |
③職場復帰訓練 | 概ね8割以上達成できているか確認 |
④復職可否の判定 | 主治医、産業医、臨床心理士の意見及び職場復帰訓練等の実績をもとに総合的に判断 |
※確認等により業務遂行の能力回復が不十分と考えられる場合には、プロセスの延長や中断の判断を行います。 |
また、平成24年度から人事課に再任用ながら初めて保健師の大塚 ヒロ子氏が配置され、有所見者の定期的な保健指導に加えて、健康上の不安を抱えている職員の健康相談が実施できるようになりました。大塚氏は有所見者を減らす目的での配置でしたが、保健指導をする中で職員からストレスの悩みや人間関係などの相談を受けることもあり、メンタルヘルス不調の早期発見にもつながっています。
1時間以上面談したり、フォローのメールをする
など手厚い指導でリピーターも多い大塚氏
3 全国労働衛生週間にあわせて市独自の取り組みを実施
毎年、安全衛生に係る国のさまざまな取り組みが、各地方公共団体に通知されていますが、平成23年度から、全国労働衛生週間にあわせて市独自の「声かけ運動」を実施しています。これは、コミュニケーションの良好な職場はストレスが軽減され、忙しくてもメンタルヘルスの健康度が高いと考え、思いやり、ねぎらいの言葉や相談のきっかけとなるような問いかけを、積極的に行うよう全庁に呼びかけているものです。週間は10月1日から7日までですが、これを機会として「声かけ」の継続を呼びかけています。
「声かけ運動」は各所属所に通知するだけでなく、きちんと実践してもらうために、庁内のイントラネットで配信される「職員だより 」にもイラスト入りで、どのように「声かけ」をしたらよいか分かりやすく示しています。
また、平成24年度からは全国安全週間を公務災害防止対策の強化週間とし、公務災害防止を図るために、4Sの実施や作業手順の遵守等の徹底と継続を促しています。
さらに、平成25年度は国家公務員安全週間の歴代の標語から市本庁舎衛生委員会が数点を選定し、各所属所でその標語を掲示し安全衛生の意識啓発を図るほか、ヒヤリハット事例集の作成や職員満足度調査を実施します。
「メンタルヘルスの不調者が増えてきた背景もあって、できることはどんどん行動しようというのが、私たちのスタンスです。」と齋藤課長が語るように、春日部市人事課は今、さまざまな取り組みを加速させています。
日々、安全衛生の
啓発を図ります
アドバイザーより一言
メンタルヘルス不調者を出さないよう、特に外部の専門機関と連携し、不調者の早期発見や職場復帰後のきめ細かな対応等に熱心に取り組んでいることは、とても良いと思います。有所見者への定期的な保健指導により、職員の健康への意識も向上しています。
きちんと年間計画を作成・実施されているので、公務災害減少等の目標にしっかりリンクした計画にすると、さらに良いものになります。また、各安全衛生委員会を定期開催し、部門ごとに安全衛生の取り組みを進めるとともに、通勤災害など全体に係る問題や好事例を各委員会で共有できると、より一層委員会の活性化につながります。
中央労働災害防止協会 関東安全衛生サービスセンター
衛生管理士 松村 博