地方公務員災害補償基金 Fund For Local Government Enployees' Accident Compensation

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Report5 Asahikawa City

経験を生かした安全衛生の取り組み 旭川市

取り組みのポイント

  • シックハウスに係る市の指針において、安全衛生委員会等の関与を規定し、職員の安全衛生の確保を図る
  • 資料編に9種類のチェックリストを入れるなど、使いやすいメンタルヘルスケア冊子を作成・配付

公共建築物に対するシックハウス対策は、各地方公共団体が指針やマニュアルを定めて対応しています。これら指針等の多くは、施設を利用する住民の健康被害の防止を目的としています。しかし、旭川市では、シックハウスによる職員の公務災害が生じた苦い経験を生かし、職員をも守るシステムを組み込んだ指針を策定、運用してきました。こうした、経験を生かして職員の安全衛生を図る、旭川市の取り組みを紹介します。

1 職員も守る「旭川市公共建築物室内空気汚染対策指針」の策定

市では、平成12年度に市役所第二庁舎改修工事を行いましたが、この工事で生じた揮発性有機化合物等(以下「VOC等」といいます。)が原因で、職員に健康被害が生じました。人事課職員厚生担当課長補佐の小林 俊彦氏はこう語ります。「施工には留意していたはずですが、第二庁舎の老朽化に伴う内外装の改修工事で、VOC等を吸い込んでしまった職員が複数生じました。すぐに体調が改善した者もいますが、中には職場を移らざるを得なかったり、改善して戻ったものの、後日、重症化してしまった人も出ました。」

小林課長補佐

「VOCの被害は原因を突き止めるのが難しいです」と語る小林課長補佐

平成12年度当時、VOC等による公務災害の認定はほとんどありませんでした。しかし、症状の生じた職員は、他に原因が考えられないことから公務災害として認定されました。

そして、平成14年に「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」が改正されるなど、シックハウス対策が本格化するなかで、市では、この苦い経験を生かし、平成16年7月に「旭川市公共建築物室内空気汚染対策指針」を策定します。

この指針の特徴は、市民だけでなく、職員の健康も規定していることです。指針の目的には「市有の公共建築物の建設及び管理に当たって留意すべき事項を指針として定め、…市民や職員が快適で安心して利用できる施設を確保することを目的とする。」と定められています。そして、当該指針の「関連マニュアル編」では、市職員安全衛生委員会の現地視察や人事課職員健康管理室による職員の体調確認など、VOC等による職員の健康被害を防止する取り組みが盛り込まれています。

職員の健康被害を防止する取り組み

時期 取り組み主体 内 容
施設の使用開始前 市職員安全衛生委員会 新築・改修工事等が行われた施設の現地調査
産業医の意見を聞き、市公共建築物室内汚染対策会議に改善等を意見
施設の使用開始後 人事課職員健康管理室 不調を訴える職員の執務室等の確認
不調者の体調確認
産業医への報告と対応についての確認
不調者及び所属長に、今後の方向性について説明

小林課長補佐は「指針等に基づき、訴えがあればその都度現場に行っています。必要があれば測定もしていますが、全て基準以下でした。しかし、勤務している職員は個々に感覚が違いますので、まずは不調を訴える職員の声を聞くなど、早期対応に努めています。」と語りました。

こうした迅速な対応が功を奏し、指針策定後はVOC等による公務災害は1件も生じていません。また、小林課長補佐はこうも語りました。「過去の災害があったので、このような指針ができたと思います。災害がなくてもシックハウスに係る指針は策定されたでしょうが、今のような仕組みはなかったかもしれません。」

2 使いやすいメンタルヘルスケア冊子を作成・配付

旭川市の長期病休者に占めるメンタルヘルス不調者の割合は、地方公共団体の全国的な傾向と同様に、年々増加傾向にありました。

そこで、市は状況の改善を図るために、平成19年度に職員本人用のメンタルヘルスケア冊子「心の健康づくり」を、平成20年度には「管理監督者のための『職員の心の健康づくり』手引き」を作成・配付しました。

この2冊は、日ごろから使ってもらえるように、例えば職員本人用の冊子には、9種類のチェックシートを入れる等充実した資料編が付いています。小林課長補佐はこう語ります。「これまでの経験から、文章だけだとなかなか読んでもらえないと思いました。資料編に色々なチェックリスト等を入れることで、日常的に読んでもらい、使ってもらえる冊子にしたいと考えました。

資料編の内容

冊子 内 容
「心の健康づくり」
(職員本人用)
ストレスチェック、疲労度チェック、ストレス耐性度、ストレス対処法、抑うつ傾向チェック、アルコール依存度チェック等9種類のチェックシートを添付
「管理監督者のための『職員の心の健康づくり』手引き」 病気休暇の期間に応じた主治医の診断書や健康管理医(産業医)の面談等の有無について、一覧表で分かりやすく表示

これら冊子の作成後、平成18年度は620件だった職員健康管理室への相談が年々増加し、平成21年度には958件となりましたが、その後減少し、平成24年度は792件になりました。

人事課職員厚生担当課長の阿部 裕二氏はこう語ります。「ここ数年、職場復帰のマニュアル作り等に取り組んでいます。職員や所属長がメンタルヘルス不調に対する理解を深めたことから、早くから相談に来るようになりました。早期対応が進んで、重症化が防げるようになったと思います。」

また、職員健康管理室で日々、職員からの相談を受けている人事課職員厚生担当主幹で保健師の山崎 久美子氏は「今までの取り組みを分かりやすくまとめたものが手引です。各職場では、メンタルヘルス不調者を見守る意識や、復帰イコール完治ではないことなどへの理解が進んだと思います。」と冊子の効果を語りました。

阿部課長

「職場全体で不調者をフォローでき
るよう図っています」と阿部課長

山崎主幹

「所属長には70点主義で不調者に接して
くださいと話しています」と山崎主幹

3 朝礼等職場環境改善の取り組み

市では、平成24年度から全ての課において、毎月曜日の始業時に朝礼を実施しています。週の始まりである月曜日に、まずは職場でのコミュニケーションを促進し、話しやすい職場環境をつくろうとする取り組みです。小林課長補佐は「同じ課でも異なる業務を行っていると、情報共有が十分でない場合もありました。職場として必要な情報が共有されれば、職務も一層円滑に進みます。」と職務上のメリットも語りました。

また、職場の風通しをよくしようと、平成24年度には、全庁で一斉に執務室の整理整頓を行いました。阿部課長は「文書廃棄の際に整理整頓を行う程度でしたので、執務室の環境は良いとはいえない状態でした。そうした中、職場で前の人の顔が見えない、片付けをしませんかと職員から提案がありました。風通しのよい職場環境は、メンタルヘルス不調の防止にもつながると考えて実施しました。」と経緯を語りました。

キャビネットの上に載っている物は片付ける、中の不要な書類は廃棄する等の基準を例外なく適用して、整理・整頓を行いました。

こうして、片付いた執務室内は、風通しが良くなるとともに、大地震等によるキャビネットの転倒や書類の散乱の可能性が減少し、安全衛生の向上が図られています。

整理・整頓

整理・整頓の効果が
持続しています。

アドバイザーより一言

アドバイザー/藤井氏

建築物室内空気汚染対策では、現地確認により対応しており、目に見えない不安に対して、適切に対処されています。

また、全職場での統一した朝礼の取り組みは、職務遂行等に連帯感をもたらし、職場の安全衛生を確保するためにも重要なことです。安全衛生の話題を取り入れる工夫もされ、ぜひ継続ください。

メンタルヘルス対策では、作成・配付された冊子の資料編に、各種のチェックリスト等が用意されており、日常的に活用できる良いものです。

平成24年度に実施した全庁的な整理整頓は、安全衛生の基本である4S活動に、職場の風通しをよくする視点を加味して一斉実施しており、とても効果的です。これからもシンプルな基準により、継続して取り組まれることを期待します。

今後は、衛生管理者の有資格者の継続的な養成や、4Sの好事例を広める視点での職場巡視の実施も検討してみてください。

中央労働災害防止協会 北海道安全衛生サービスセンター
安全・衛生管理士 藤井 邦明

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City profile

北海道旭川市

旭川市位置

  • 面積 747.6km2
  • 人口 349,307人
    (2013.10.31現在)
  • 人口密度 467人 /km2

見どころ

旭山動物園 旭山動物園

特産品

旭川ラーメン 旭川ラーメン

シンボルキャラクター

あさっぴー あさっぴー

City office

旭川市役所

旭川市役所

〒070-8525
北海道旭川市
6条通9丁目
取材先:人事課

職員数2,879人
【内訳】
一般行政 1,445人
教育 275人
消防 362人
公営企業等 797人
(2013.4.1総務省調査)

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