Report8 Akita City
効果的な組織単位で安全衛生を推進 秋田市
取り組みのポイント
- 危険・有害業務がある事業場は、50人未満でも単独の安全・衛生委員会を設置して公務災害の防止等を推進
- 精神科産業医の発案により復帰支援手引きの作成や職場単位でのメンタルヘルスチェックの実施等に取り組み、ラインケアの充実を図る
秋田市は職員数の適正化を図るため「県都『あきた』定員適正化プラン~第4次秋田市定員適正化計画~」に基づき、毎年度職員数の削減を行っています。こうして、一段と効率的な行政運営が求められる中で、労働安全衛生法の規定を上回る体制の整備等により、一層の安全衛生の向上を図る秋田市の取り組みを紹介します。
1 50人未満の事業所に安全・衛生委員会を設置
労働安全衛生法令では、衛生委員会は業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業場に設置することが定められています。このため多くの地方公共団体では、50人未満の小規模な事業所は、本庁や統括する部局の衛生委員会に含めています。このような設置方法は法令に従ったものですが、一方、小規模な事業所の意見が取り上げられにくい等の状況も見られます。
しかし秋田市では、職員数が50人未満であっても業務の性質上、必要と考えられる事業所には安全・衛生委員会を設けています。その趣旨を人事課給与厚生担当主席主査の藤原 健一氏はこう語ります。「食肉衛生検査所では、家畜の内臓を検査して病気の有無を調べますが、刃物による事故や血などで床が滑りやすく転倒等の危険もあります。他にも動物園や環境センターなど、一般事務の職場に比べて危険・有害業務がある事業所については、臨時・嘱託職員を含めて50人未満であっても安全・衛生委員会を設けて、職場ごとで公務災害の防止等に取り組んでもらうのがよいとの考えです。」
「業務に応じた安全衛生活動が必要です」と語る藤原主席主査
小規模な事業所でも、職員が働いているからには労働安全衛生活動が不可欠です。法令では、10人以上50人未満が働く事業所では、安全衛生推進者等が安全衛生活動を担うよう定めていますが、市では小規模事業所にも安全・衛生委員会を設置する積極的な対応により、全庁的に安全衛生の向上を図っています。
秋田市安全衛生管理体制
2 災害のない職場を推進する各委員会独自の取り組み
安全・衛生委員会の輪を構成する各安全・衛生委員会は、それぞれ業務の実情に即した安全衛生活動に取り組んでいます。危険・有害業務のある安全・衛生委員会では、独自の取り組みが顕著です。特に、廃棄物処理業務を行う総合環境センター安全衛生委員会では、平成14年度から「各種作業の安全心得」を策定し、運用しています。
この心得の冒頭の「はじめに」には、「事故は設備の不備と作業者の不注意によるもの、…複合的なもの等…に大別されるが、…統計をみると作業者の不注意によるものが圧倒的に多いのが現状である。」と分析し、「…事故の発生を防止するため、基本的な安全心得が不可欠となっており、…『各種作業の安全心得』を作成したものである。」と公務災害の最大の原因である不安全行動の防止を明確に示しています。
その内容は服装や4S等、基本的・全般的な事項から、機械の巻き込み防止、クレーン・玉掛け作業、酸欠箇所作業等の安全心得、ダイオキシン類による健康障害防止対策まで、実に幅広い内容を網羅しています。また平成23年度には、土曜日は平日に比べて出勤人数が少なく体制が異なるとの委員会意見を受けて、それまで1つだったごみピット転落時の対応マニュアルを見直し、平日と土曜日に分けた対応としました。
その他、環境部安全衛生委員会では、職場巡視の状況及び改善状況を、それぞれ写真で分かりやすく示した資料により報告が行われるなど、各委員会が工夫した取り組みを行っています。人事課給与厚生担当の保坂 貴俊氏は「委員会意見などにより危険業務等に対するマニュアル類が作成され、それを日常的に使用することで安全衛生の向上に取り組んでいます。」と、各委員会の取り組みを語りました。
「危険な業務のある職場ほど熱心に
取り組んでいます」と語る保坂氏
3 職場単位でのメンタルヘルスチェック等によるラインケアの充実
職員数の適正化が進み仕事の質が高度化等する中で、秋田市でも全国的な傾向と同様に、メンタルヘルス不調者が増加傾向にありました。こうした状況に対応するため、市ではメンタルヘルス対策を充実していきます。藤原主席主査はこう語ります。「近年、メンタルヘルス疾患で長期療養する職員が目立つようになりました。そこで、平成18年度に精神科医に産業医を委嘱して、メンタルヘルス対策への取り組みを強化していきました。」
市は、平成18年度から精神科産業医によるメンタルヘルス相談を始め、平成20年度にはこの産業医の発案・監修で「メンタルヘルス職場復帰支援の手引き」を作成します。手引きは全所属長に配付され、研修等を通じて特に慣らし出勤の必要性が徹底されました。藤原主席主査は語ります。「精神科産業医が就くまでは、産業医は職場復帰にあまりかかわっていませんでした。主治医の診断で職場復帰を判断していましたし、所属長は慣らし出勤の必要性について十分理解していませんでした。そこで、精神科産業医のアドバイスにより、全所属長に慣らし出勤について勉強してもらって、その必要性を徹底しラインケアを強化しました。」
また、平成23年度には「管理監督者メンタルヘルス対応マニュアル」を作成したほか、希望により課所室等の単位で、全員を対象とするメンタルヘルスチェックも開始しました。藤原主席主査は「精神科産業医から、多忙な職場ではメンタルヘルスの状況が良くないのではないか、と話がありました。それで産業医の発案によって、所属単位でメンタルヘルスチェックを実施して、潜在的にリスクを抱えている職員の早期発見・対応を図ることとしました。」と実施の経緯を語りました。所属を単位とするメンタルヘルスチェックは全員を対象とし、あらかじめ記入したチェックリストに基づき、精神科産業医が一人ひとり面接を行いますが、個人で受けるよりも職員の抵抗感が少ない等、さまざまなメリットもありました。
これらの取り組みにより、市のメンタルヘルス不調による休職者等の人数は低減傾向に転じており、メンタルヘルス対策の充実が改善につながっています。
所属単位によるメンタルヘルスチェックのメリット
区分 | メリット |
---|---|
セルフケア | 不調の自覚がない職員が、自分のメンタルヘルス状態に気付くきっかけにできる |
不調を感じながらも相談等をためらう職員が、抵抗感なく受けることができる | |
ラインケア | 不調者の早期発見・対応が可能になる |
職場全体のメンタルヘルスの傾向が把握できる | |
職場の環境改善のきっかけになる |
「このチェックは多くの課所室に利用してもらいたい
です」と語る人事課給与厚生担当の粟津 優加利氏
アドバイザーより一言
各安全・衛生委員会活動では、年間活動計画の作成や巡視における写真を活用した指摘事項・是正状況の確認等は、良い取り組みです。また、総合環境センター安全衛生委員会で作成された「各種作業の安全心得」は、業務に関係する幅広い事項が網羅されており大変良いものです。この心得は、イラストや必要な資格事項等の挿入により、より分かりやすいものにして、新採職員の教育にも活用ください。
重大災害が予想される除雪機器や刈払い機の操作については、対象者に毎年研修を実施され、災害撲滅に向けて努力されています。今後とも継続して取り組んでください。
メンタルヘルス対策では、精神科の産業医と連携した職場復帰支援プログラムの作成・運用や相談業務の充実等の取り組みが良好です。
今後は、公務災害で多い転倒や針刺し等に対して、危険予知活動や指差し呼称等、職員の感受性を高める取り組みが有効ですので、導入を検討ください。
中央労働災害防止協会 東北安全衛生サービスセンター
安全管理士 木村 三男