地方公務員災害補償基金 Fund For Local Government Enployees' Accident Compensation

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Report3 Nagasaki City

坂のまちから。公務災害、そして交通事故の抑制を 長崎市

長崎のまちは、坂のまち。全体的には長崎港を中心に周りをぐるりと山で囲まれたすり鉢状の形状を持ち、 細部を見るとその地形は実に複雑です。驚くほど急な傾斜、細い道、数多くの石段が、まちのあちらこちらに姿を現します。 こうした長崎ならではの街並みは、異国情緒あふれる独特の風情と相まって、住む人には誇りを、訪れる人には深い魅力を 与えてくれるのですが、坂のまちならではの苦労も・・・。

今回のレポートでは、そんな長崎市の公務災害防止への真剣な取り組みを紹介します。

ハードなごみ収集作業

ごみ収集作業はもともと肉体的に負荷の大きい業務ですが、相当に斜面地が多い長崎市では、 その作業は輪をかけてハードなものとなります。車が入れないごみ収集所が多数あり、そうした所で清掃作業員は、 空のカゴを持って階段を走り、カゴにごみを入れたら再び走って戻ってこなければなりません。 そうした作業中に、ひざや足首、腰といった部位について、ねんざや肉離れといった傷病を負う事故が多いといいます。

写真:坂道 写真:坂道その2

市役所の近くでもこんな坂が 中心部から離れるほど急坂が多くなります

長崎市の平成14~23年度の10年間の公務災害は、全部で295件(通勤災害・現在独立行政法人化した市民病院の災害を除く)。 そのうち清掃事業で起きたものが87件と全体の約3割を占めます。

「坂が多く、道が狭く、ごみ収集には、厳しい環境であることは事実ですが、大事なのは公務災害を出さないこと。 ただ特に今のところ奇策はありません。作業手順をしっかり定め、作業員はしっかり守る。 当たり前のことを徹底していくしかないと思っています。」総務部人事課で安全衛生を担当する大塚 貴伸氏はこう語ります。

写真:大塚氏

「やるべきことはしっかりやりたい」と担当の大塚氏

安全衛生委員会はきっちり

長崎市には、前述のごみ収集業務を管轄に置く「環境部安全衛生委員会」をはじめ、合計9つの安全衛生委員会があり、 それぞれ自主的に活動を行うことを基本としています。そして9つの委員会は全て、労働安全衛生規則の規定通りに、毎月1回 委員会を開催することとしています。産業医による職場巡視もほぼ毎月行っています。

図:長崎市の安全衛生管理体制

全職員の55%を管轄する「中央安全衛生委員会」の中で取り上げるテーマは、「公務災害再発防止」と 「メンタルヘルス」が主なものだといいます。

「公務災害再発防止」では、所属の作成する「公務中等の災害調査報告書」を基に「はたして本当にそうなのか」 「もっとできることはないのか」という視点で熱心な議論が交わされます。その結果、改修等必要な対策が示された場合は、 できるだけ迅速に対応していくようにしています。

「メンタルヘルス」関連については、試し出勤の状況や長時間時間外勤務従事者の勤務状況などを報告し、 委員から改善に向けたアイディアや意見をもらいます。長時間時間外勤務従事者の資料では、本人のみならず、 同一係の全職員の勤務時間数も記載するなど、できるだけ精密で広範なデータを提示することで、意見を出しやすくしています。

また「中央安全衛生委員会」では、産業医による職場巡視を年10回ぐらい行っています。 1回につき3~4課所を、その職場に応じたチェックリストを使って、2時間かけてゆっくり確認します。 ただ同委員会に関しては、その管轄の広さから、各課所に職場巡視が回ってくるのは4年に1度ぐらいになるとのことです。

安全衛生の統括部署

安全衛生の統括部署である総務部人事課は、自ら庶務を司る「中央安全衛生委員会」以外の8安全衛生委員会から、 書面にて逐次、委員会の審議内容、職場巡視の結果などの報告を受けることとなっています。

写真:結果報告書

各委員会から提出される報告書

ただし同課では、単にその報告を受け取り、取りまとめるだけでは終わらせません。 職員の安全と健康を確保すべき「事業者」の目を持って、その報告書をよく検証し、必要に応じ助言を行っています。

例えば、以前「環境部安全衛生委員会」から報告された書類に、ごみ収集車がバックして、壁にぶつかった 公務災害の再発防止の検討がありました。運転者の不注意を是正する再発防止策のみ記載されていましたが、 よく見ると誘導者の立ち位置に問題がありました。最悪の場合、車両と壁に誘導者がはさまれた可能性も。 同課では、同委員会にその旨を伝え、再検討を要請しました。

同課では、このように各安全衛生委員会の要になる一方で、イントラネットで毎月発行される「安全衛生だより」を通し、 職員に直接、労働安全衛生の情報を発信しています。安全衛生委員会の活動報告のほか、交通事故の事故事例や健康診断の結果について 図表を使うなど、分かりやすく伝えるよう心掛けています。

写真:安全衛生だより

安全衛生だより。力作です

また長崎市は、安全衛生の人材育成・開発に大変力を入れており、同課では一括してその業務を行っています。 具体的には、全庁で年10人程度「衛生管理者」第1種試験の受験者を募ったり、充て職である「安全管理者(課長級)」 に選任時研修受講を手引きしたり。また、職場での労働安全衛生の理解を深め、次代の担い手を育てるため長崎市独自で 設置している「安全管理推進員」「衛生管理推進員」を118人選任し「衛生管理者」「安全管理者」を補佐させています。

交通事故防止に向けて

「安全衛生で現在当市が最も力を入れている事項は、職員の交通事故をいかに減らしていくかです。」 人事課管理係長の立木 祝成氏は、きっぱりとこう話します。

写真:立木係長

「最大の課題は職員の交通事故」と立木係長

長崎市職員の交通事故は、公務中・通勤途上合わせて年間50件前後、発生しています。 ここ5年間の事故件数の推移を見るとじわじわと増加しており、 約3割は人身も伴う事故です。また、物損事故の傾向としては、バックして壁にぶつけた、 横の車に接触したといった単純な不注意から発生した事故が多く、坂が多いという長崎の道路事情の影響はあまり無いそうです。

グラフ:長崎市職員の交通事故の推移

人事課では、事故を起こした職員、その所属長に対してヒヤリングを実施し、その原因究明に当たっています。 その上で、各安全衛生委員会や年4回の安全運転管理者等による協議会では、事故事例を1件ずつ検証しており、 全庁的に再発防止に向けた取り組みが進められています。

また、事故を起こした職員には、運転技術と事故防止意識の向上のため、警察の研修や、 自動車学校での講習会を受けてもらっています。さらに、職員全体の事故防止意識の啓発のため、前述のとおり毎月 「安全衛生だより」で公用車の事故事例を図入りで紹介するほか、事故に至っていない「ヒヤリハット事例」を職員から募り、 その結果をイントラネットで公開することも行っています。「交通事故を減らすため、やれることは何でもやろうという気持ちで取り組んでいます。」 と立木係長は語ります。

月曜の朝、長崎市庁では「一週間の主な行事予定」が庁内放送され、その最後は決まって次の言葉で締めくくられるそうです。 「車の運転を行う際には前後左右、確認して、安全運転に努めましょう。」

アドバイザーより一言

写真:アドバイザーの武石氏

安全衛生の管理体制が整備され、しっかり運営されています。統括部署の使命感や熱意が強く、 それが全体に良い影響を与えているように見受けられました。 「安全衛生だより」は必要な情報が網羅され、担当者のメッセージが伝わる労作だと思います。

さらにここからもう一歩進めるなら、中長期的な安全衛生目標を定め、毎年それを自主評価し、 改善につなげる「労働安全衛生のPDCAサイクル」の確立に挑戦してみてはいかがでしょうか。

2012年08月21日
中央労働災害防止協会 九州安全衛生サービスセンター
安全管理士  武石 俊哉

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City profile

長崎県長崎市

長崎市章
長崎市位置図

  • 面積 406.46km2
  • 人口 438,163人
    (2012年4月1日現在)
  • 人口密度 1,080人 /km2

市の花アジサイ

写真:長崎市紫陽花

市の木 ナンキンハゼ

写真:長崎市南京櫨

市の交通安全キャラクター

イラスト:長崎市キャラまもるンダ

まもるンダ

City office

長崎市役所

写真:長崎市役所

〒850-8685
長崎県長崎市
桜町2番22号

職員数
3,296人
2012年4月1日現在
地方公共団体定員管理
調査(総務省)による
【内訳】
一般行政 2,085人
教育 351人
消防 473人
公営企業 387人

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