地方公務員災害補償基金 Fund For Local Government Enployees' Accident Compensation

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被災した本庁舎、その状況下での労働安全衛生 水戸市

平成23年3月11日、三陸沖を震源とする未曾有の大地震、東日本大震災が発生しました。 水戸市も震度6弱の強い揺れに襲われ、建物、道路、ライフラインに大きな打撃を被っています。 さらには、本来、防災・復興の拠点となるべき市の庁舎が、震災の影響で使用不可という事態となりました。

今回は、こうした通常とは違った環境下で、水戸市がどのような労働安全衛生活動を行っているのかレポートします。

職員の疲労は大丈夫か

震災直後、水戸市内の避難者数は最大で1万2000人を超え、設けられた避難所は一番多い時で71か所に上りました。 避難所への物資搬入をはじめ、道路、水道、下水道といった社会基盤等の早急な復旧など計り知れない震災処理への対応のために、 水戸市は24時間体制を敷くことにします。 職員の勤務形態を3交代制とし、この体制を3月末日まで20日間にわたり継続しました。

さらに、7階建ての本庁舎、4階建ての水道庁舎等が、被災して使用できないという事態に陥り、 新たな執務室へ書類を持って移動しなければならない、仮設のプレハブ庁舎の環境下で執務を行わなければならないという 重い負担が職員にのしかかってきました。

写真:庁舎外観 写真:立ち入り禁止
写真:庁舎内部 写真:締切ドア

(左上)使用不能になった本庁舎  (右上)震災の傷あとがあちこちに
(左下)現在はもう森閑と静まり返る本庁舎内部  (右下)固く閉ざされたドア

職員の疲労は大丈夫だろうか――。職員の安全衛生を担当する人事課の不安に、 産業医の皆川 憲弘先生からアドバイスがありました。「職員にセルフチェックを行ってもらい、希望者には面談をした方がいい。」 震災から20日後、人事課は、全職員を対象に「疲労蓄積度自己診断チェックリスト」を配付し、 希望者には産業医の面談を行うことを通知しました。「結局、面談希望者はいませんでしたが、職員が疲労に気付くきっかけを与え、 事業者としての安全配慮を示したことに、意義があったと思います。」人事課長の根本 一夫氏はこう語ります。

写真:根本課長

「非常時の職員支援は迅速さが大切」と根本課長

水戸市では、震災半年後にもう一度、チェックリストの配付と産業医の面談の呼び掛けを行いました。 この時は4名の面談希望者があったため、産業医面接を実施し、本人への保健指導などを行ったとのことです。

震災影響下での労働安全衛生管理体制

水戸市の公務災害の中で、震災の影響から発生した事案は、必要な資料を探すためプレハブ庁舎に保管してあった 段ボール箱を持ち上げた際に肩を負傷したケースや、執務室内において設備の修繕の際に転倒し足を負傷したケース など、幸いわずかでありました。 しかし、震災関連業務が今もなお続く中、人事課副参事の天野 純一氏は「むしろ、表面には現れない職員の心への影響が気掛かり」と語り、 まだ気を抜けないといった面持ちです。

写真:天野副参事 写真:プレハブ庁舎

(右)天野副参事   (左)現在、人事課が入っているプレハブ庁舎

水戸市には、「職員」「水道部職員」「消防職員」の3つの安全衛生管理規程があり、 合計8つの「安全衛生委員会」が設けられています。委員会は各々独立して、職員の安全や健康、 公務災害防止に向けた調査や審議を行い、各任命権者に具申し、必要な対策が進められています。

図:水戸市の安全衛生管理体制

8安全衛生委員会のうち「本庁安全衛生委員会」は、他の7安全衛生委員会に属さない 全ての職場(出先機関も含む)の安全衛生を管轄しています。

同委員会では、多くの職場がこれまでの庁舎を使えず仮設のプレハブ庁舎等での執務を余儀なくされていることから、 震災発生5か月後に、職場環境の実態を知り必要な改善を施すための職場巡視を行いました。 その結果、執務室・市民待合室へ侵入するトイレ臭、照度不足の階段、急な傾斜にも関わらず滑り止めの無い階段、 散らかりがちなごみ箱、腰に負担のかかるパイプ椅子の普段使用、AEDの未設置――等々が見つかり、全て素早い対応がなされました。

同様に、水道庁舎が使用不可になっている水道部の「安全衛生委員会」でも、 仮設のプレハブ庁舎等に移動し悪化した職場環境をできるだけ改善していく取り組みが熱心に行われているということです。

仕事面と健康面とのバランスに向けて

平成20年、水戸市で職員の過重労働死亡事故が発生しました。担当業務に係る制度改正があり業務量が大幅に増加。 時間外勤務が月100時間を超えたり、クレームの処理をしたりと、肉体的にも精神的にも過重な負荷がかかったことによるものでした。

水戸市では、行政改革で定数削減が進み、職員1人当たりの業務量増加が心配される中、業務の効率性を高め職員の ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を図れるよう組織を挙げて取り組んできました。 特に過重労働対策に関しては、平成18年4月労働安全衛生法改正の1年前から「時間外勤務の縮減の基本方針」を定め、 法よりも厳しく超過勤務対策を行ってきただけに、やりきれない結果となりました。

「仕事面と健康面のバランスの取り方が、全ての管理職の悩みの種です。一時は減少していた時間外勤務も、 最近、震災の影響もあり増加に転じています。」と、天野副参事は厳しい表情で語ります。

そんな中、水戸市では、少しでも職員の負担を減らせるよう、育児休業者が出たとき、育児休業者を定数外として翌年度の正規職員を 前倒しで採用しています。正規職員の補充は、臨時職員の補充に比べ、職場の負担軽減にかなり役立っているといいます。

また、平成21年4月に健康管理保健師を配置し、平成22年4月には精神科健康管理医を配置。 相談・支援体制を充実し、メンタルヘルス不調による長期療養者や再発者の抑制に努めています。 気軽に相談できる環境づくりは職員に浸透し、本人だけでなく職場の上司からの相談も含め、メンタルヘルス相談は多くの職員に 活用されています。健康管理保健師の仕事は常にフル稼働の状態です。

写真:冊子

「時間外勤務の縮減の基本方針」「水戸市職員の心の健康づくり計画」

さらに、平成22年4月「水戸市職員の心の健康づくり計画」を策定しました。 この計画は、平成22年度から3年間にわたる職員のメンタルヘルスケアの総合計画で、市長による基本方針の表明、役割の明確化、具体的な取り組み等、 心の健康づくりに欠かせない内容がきめ細かく盛り込まれています。 策定に当たっては、各労働安全衛生委員会から推薦された職員8人が参加し、 出来る限り多種多様な職員の意見に耳を傾けるよう心掛けたといいます。

そして、この計画期間中、全ての職員はそれぞれの職位に応じたメンタルヘルス研修を受講することを 義務付けられています。メンタルヘルス不調を少しでも減らすため、それぞれの役割認識を深めてもらうのがねらいです。

 「一歩、一歩ではあるが、職員の心の健康を守る対策は着実に進んできている。 精神性疾患による長期療養者の再発職員も減少し、少しずつ効果も現れてきた。これからも気を抜かず歩みを進めていきたい。」 根本人事課長は、最後にこう語ってくれました。

写真:取材風景

プレハブ庁舎の会議室でお話を伺いました

アドバイザーより一言

写真:アドバイザーの小泉氏

休職者が出た職場では、残された職員への負担が大きくなりがちです。 育児休業の代替職員を、正規職員で補充できるようにしたことは素晴らしい取り組みだと思います。

また、8つの安全衛生委員会で、それぞれ安全衛生活動を行っていますが、 年1回でもよいので、全ての安全衛生委員会の代表者が一堂に会する機会を設けてみては如何でしょうか?  横のつながりが出来るとともに、お互いに刺激を与え合えます。他の安全衛生委員会の好事例も参考にできますよ。

2012年07月26日
中央労働災害防止協会 関東安全衛生サービスセンター
安全・衛生管理士  小泉 潤一

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City profile

茨城県水戸市

水戸市章
水戸市位置図

  • 面積 217.43km2
  • 人口 268,649人
    (2012年4月1日現在)
  • 人口密度 1,236人 /km2

市の木 ウメ

写真:水戸梅

市の花 ハギ

写真:水戸萩

市の鳥 ハクセキレイ

写真:水戸ハクセキレイ

 

City office

水戸市役所

写真:水戸市役所

〒310-8610
茨城県水戸市
中央一丁目4番1号

職員数
2,030人
2012年4月1日現在
地方公共団体定員管理
調査(総務省)による
【内訳】
一般行政 1,146人
教育 301人
消防 340人
公営企業 243人

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