Report7 Isesaki City
職場復帰率90パーセント マニュアルとフットワークで 伊勢崎市
平成21年度以降、伊勢崎市でメンタルヘルス不調により長期病休を取った職員(消防・病院部門を除く)は実人数20人ですが、 うち18人は現在職場に復帰し元気に働いており、平成24年10月現在のメンタルの長期休業者は1名となっています。
今回は、メンタルによる長期病休者発生を未然に防ぎ、職場復帰でも成果を上げる伊勢崎市の「職場復帰支援制度」など様々な安全衛生の取り組みをレポートします。
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休業者と所属長の「交換日記」
「せっかく職場に戻っても、職場の人と疎遠ではスムーズに復帰することは難しいと思います。 そこで、毎日、所属長と交換日記をしてもらうことにしました。」こう語るのは、伊勢崎市の職員課厚生係長代理で保健師の堀越 恭子氏。
この職場6年目の堀越保健師、職員でこの顔を知る人は多いです
ここでいう「交換日記」とは、正式名を 「日常生活記録報告書」 といい、長期休業者が復帰への“ならし勤務”中に、 休業者と所属長の間で毎日記入することが義務付けられているものです。仕事に追われ対面での意思疎通がなかなか難しくても、 日記を通すことで、体調の細かな変化、気持ちの変化、思いやり、理解、共感などをお互いに伝えることができます。 この相互のやりとりに堀越保健師は毎週目を通し、復帰に向けて順調に進んでいるかを確認。必要に応じてアドバイスを行います。
平成22年4月、伊勢崎市では 「職場復帰支援制度実施マニュアル」 を作成しました。それまでも長期病休者の復帰支援に相当熱心に 取り組んできましたが、職員に向け職場復帰推進への道筋を示し、一定のレベルの取り組みをずっと維持できるよう明文化しました。 マニュアルは「病気休暇の開始・休暇中のケア」「職場復帰の判断」「ならし勤務と復帰スケジュール」「職場復帰の決定」 「復帰後のフォロー」の5つのプロセスについて、それぞれ手順や手法が分かりやすく示され、「職場復帰」に関し市職員全体の 共通認識が形成されやすいものとなっています。
フットワークと職員の理解
堀越保健師は長期病休者が出ると、そのフットワークで、家族、所属長、主治医、カウンセラーなどなるべくいろいろな人と 直接会ったり、連絡を取り合ったりし、将来の復職を見越した様々な調整を行っています。発症の原因と回復の状況を可能な 限り把握して、効果的な職場復帰プログラムを構築していきます。人事担当をはじめ関連する各セクションは、 この草案を基に、病休者にとって、職場にとって最大限に良い結果を出そうという意識で統一され、真剣な取り組みが行われます。 受け入れる職場のメンタルヘルス障害への理解も大変高いといいます。堀越保健師は「職場復帰率が良いのは、各職場の所属長や 職員によるところが大きい。」と話してくれました。
当然のことですが、こうした職員のメンタルヘルスへの理解の高さは、偶然生まれた訳ではありません。 職員課が何年にもわたり、メンタルヘルスの啓発に力を入れ、継続して取り組んできた賜物といえます。
「新規採用職員」「上級職員」「係長代理」「係長・課長補佐」「管理監督者」各階層別の研修カリキュラムには、 必ずメンタルヘルスに関連した科目が取り込まれ、ほとんどの職員がメンタルヘルスの教育を受けています。 階層別研修とは別に、年に数回、外部講師や堀越保健師によるメンタル研修も行われ、多くの参加者が受講しています。
また、職員の関心がしぼまないよう、庁内LAN を使って、月に1度はメンタルの話題や知識に関する新鮮な情報を発信しています。
こうした取り組みは、長期病休者の復帰率のみならず、そもそもメンタル不調による長期休業者の発生率自体を 押し下げていると思われます。地方公共団体平均のメンタルによる長期病休者の発生率は千人当たり11人程度ですが、 伊勢崎市では千人当たり5~6人と全国の約半分の数値にとどまっています。
公務災害増加をきっかけに
平成20年度、伊勢崎市の公務災害発生件数は11件から27件と倍以上に跳ね上がりました。 これをきっかけに、伊勢崎市では「公務災害防止」の取り組みを強化していきます。
最初に取り掛かったのは「公務災害防止研修」の開催でした。安全衛生や公務災害防止の知識を持つ 人材を養成することが、長期にわたり公務災害の起こりにくい職場形成に役立つと考えたうえでの取り組みです。 4年目を迎えた今年は「リスクアセスメントの見積り」というハイレベルのテーマを取り上げましたが、 高い関心を持ってもらったといいます。
また、公務災害発生時の対応についても、メスを入れます。それまでは、被災者と職員課の公務災害担当者との間で 公務災害手続き等の事後処理を行うだけでした。しかし、そのやり方では今後の公務災害防止にはつながりません。
平成22年12月、職員課では公務災害が起こった職場の所属長に対し 「公務災害・通勤災害防止対策書」 の提出を義務付けました。 同対策書では、災害の発生状況、発生原因、防止対策をよく検討のうえ記入すること、そして所属長の意見が求められます。 公務災害を当事者本人だけの問題に終わらせず、組織全体の課題として対策を立てることができる制度に変革しました。
「結局、平成20年度に急上昇した公務災害発生件数は、はっきりした理由もわからないまま、翌年度には沈静化しました。 それでも、せっかく灯った公務災害防止の気運を消さないよう、もっと盛り上げていきたいです。」 職員課厚生係長の川崎 ますみ氏は、こう話してくれました。
「所属所を巻き込み、公務災害防止を推進したい」と川崎係長
最後に、伊勢崎市の労働安全衛生管理体制について、簡単に触れておきます。同市では「全庁」 「消防」「病院」の3つの部門が、別々に労働安全衛生活動を展開しています。
「全庁」部門は、大変広範な労働安全衛生の管轄を持っていますが、その「衛生委員会」は、さらに「消防」「病院」の 委員も名を連ねるという「拡大委員会形式」がとられています。このため、同委員会では全ての職場の 安全衛生の審議が行われており、全庁的な安全衛生意識の共有の場となっています。
アドバイザーより一言
伊勢崎市で、職員の安全と健康を守る活動が活発化していることを嬉しく思います。 特に公務災害の急増を発端としてここ数年頑張りを見せる「安全面」に期待をしています。
公務災害を減らすには「不注意」を「不注意」として終わらせないことが大切です。 「不注意」を引き起こした原因にまで追究していくことで、取り組みの幅が広がり、 活動の効果も上がっていくものと思われます。
また、他団体などの安全衛生活動の情報を積極的に入手し、取り入れてみることも有効です。 同規模の労働者を抱える民間企業の安全管理体制なども参考になると思います。
是非、頑張ってください。
2012年10月3日
中央労働災害防止協会 関東安全衛生サービスセンター
安全管理士 荻原 正宏