Report12 Hachinohe City
東日本大震災からの復興に向けて 八戸市
春平成23年3月11日の東日本大震災の影響が今も残る八戸市。多くの建物をのみ込んだ津波は、荒廃した風景と大量の 廃棄物をもたらしました。
今回は、現在、休みなく復興への階段を上っていく八戸市の安全衛生活動についてレポートします。
一般廃棄物の2倍の災害廃棄物
東日本大震災で八戸市は、推定6.2メートルの大津波に襲われました。津波は、沿岸の方から容赦なく家屋や自動車、 電柱、街路樹等を次々と破壊し、濁流にのみ込んでいきました。水が引いた後、そこにあったはずの風景はもう 既にそこには無く、その無残な爪痕を残すのみでした。東日本大震災により八戸市で全壊・半壊した建物は2,000棟を 超えます。
東日本大震災後の八戸市内の被害の様子
この災害で発生した廃棄物は、推定で16万9,000トン。八戸市が年間処理する一般廃棄物量が年間約8万5,000トンですから、 年間排出量の約2倍の廃棄物がいきなり出現したことになります。
八戸市は、この災害廃棄物について、適正で円滑な処理が実現できるよう「災害廃棄物処理方針」を策定。清掃事務所は、 その処理方針に沿って、最前線で災害廃棄物の処理を進めていくミッションを負うことになりました。通常業務の一般廃棄物の 処理に加えて、災害廃棄物の処理をすることは、業務量の大幅な増加を意味しました。
「確かに職員の負担は大変でしたが、震災関連業務が大変なのは清掃事務所に限りません。避難所の担当も、復興の担当も、 こんな事態ですから、皆それぞれのセクションで頑張るしかない。」清掃事務所副所長の大久保 邦男氏は語ります。「そんな 多忙な中でも、安全衛生委員会は行うようにしていました。さすがに毎月という訳にはいかなかったが。こういうときだからこそ、 職場の安全衛生を振り返ることが必要だと思いました。」
「安全に配慮し、役割は果たさなければ」と大久保副所長
現在、八戸市の災害廃棄物処理は順調に進んでいます。セメント工場や製鉄所といった民間会社が災害廃棄物を受け入れ、 官民一体の処理が進んだことが大きかったといいます。平成24年9月時点で、8万9,000トンが処理され、残り8万トン (処理率52.7パーセント)で、これまでのリサイクル率は65.7パーセントだそうです 。
(左)災害廃棄物処理の様子 (右)廃棄物から出た土砂を防波堤に再利用
なお、平成23年度中「清掃事務所安全衛生委員会」を開催できた回数は結局6回でした。平成24年度からは毎月開催に戻しています。 そして震災後、清掃事務所で起こった公務災害は、一般ごみ回収中の1件のみでした。
安全パトロールで抜き打ちチェック
八戸市清掃事務所は、八戸市役所の中でも大変活発に安全衛生活動が行われている機関の一つです。朝礼時のラジオ体操、KYTの導入、 腰痛予防体操の研修、交通安全に関する警察官講話・・・等々、こと安全衛生に関しては、できることは何でもやるという精神で 取り組んでいます。
中でも平成21年度より始めた安全パトロールは、特に成果が上がっている取り組みだといいます。これは、安全管理担当者を中心と したチームによって行われる年3回のパトロールで、パトロールの場所に応じて、やり方を変えています。
まず年度当初に行われるのは、施設状況パトロールです。事務所施設内に危険箇所はないか、現場の職員との対話を交えながら、 隅々まで施設内をチェックします。
年度中盤に行うのは、収集状況パトロールです。ごみ収集作業は清掃事業で最も公務災害が起こりやすい工程だけに、かなりの力を 入れています。作業員の普段と変わらない収集作業の様子をチェックすることにこだわり、パトロール日程は事前に伏せられています。 あらかじめ各回収車の運行時間を基にルートを定め、当日は先回りをしてその作業状況を物陰から観察します。
収集作業の様子をじっくり観察
春年度後半に行うのは、搬入状況パトロールです。施設内に入ってくる車の走行の様子、作業員の搬入作業の様子をチェックします。
いずれのパトロール結果も、安全衛生委員会で報告され、課題や対策について審議が行われます。当然、職員にも 周知され、一人ひとりの安全衛生に対する意識向上を図っています。
清掃事務所主査で安全衛生を担当する外川 真也氏は次のように話してくれました。「安全パトロールをはじめとする様々な活動 により、3年前と比較して当所の安全衛生は大幅に改善されています。今後も現状に満足せず、職員一人ひとりの安全衛生への意識 を高めていきたいですね。」
安全衛生に熱心に取り組む外川主査(左)と小笠原 貴裕氏(右)
管理監督者の気配り、目配り
全国の特例市40市の中で、八戸市は人口当たりの職員数が最も少ない市です。もともと職員一人ひとりに かかる負荷が大きい中、東日本大震災は、さらなる大きな負荷を職員に背負わせました。
災害発生から1~2か月は、避難者が多く、変則的な避難所勤務を多くの職員が続け、相当の負担がありました。この時期を 過ぎてからも、支援物資の仕分け作業をはじめ負担の大きな災害対応業務は後を絶たず、心身ともに疲弊した職員の姿も見られました。
八戸市の総務部人事課では、肉体的に精神的に重圧のかかる職員に、何ができるだろうと考えました。妙案はそうはなく、 各職場の管理監督者が上手くマネジメントすることしか考えつきませんでした。各管理監督者には、仕事をシェアするとか、 気分転換をさせるとか、しっかり必要な休みをとらせるとか、とにかく目配り、気配りを怠らないで指揮をとってほしい。 こうして、八戸市では震災5か月後に、緊急的措置として部下への心遣いや声掛けについての「管理監督者研修」を開催し、 以降毎年度実施しています。
「研修の効果は定かではありません。ただ東日本大震災が公務災害に直結した事例は無く、その点については 現時点で良いことだと思っています。ただ、今後の復興業務では、防災担当部署及び建設部関係部署の職員への業務負荷は 相当に大きくなるでしょう。気を抜いてはいられないですね。」八戸市の総務部次長兼人事課長の原田 悦雄氏は引き締まった 表情で、こう語ってくれました。
「まだまだ復興への道は続きます」と原田次長
アドバイザーより一言
東日本大震災による各部門の業務量が増大する状況下で安全衛生活動を推進するには、並々ならぬご苦労が あることをお察しいたします。
所属長は、職場の安全衛生におけるキーパーソンです。安全衛生向上のため管理監督者研修を行ったことは、 大変良い取り組みでした。自信を持って、できれば定期的に、この研修を開催していってください。
清掃事務所は、若い担当職員たちが相当なやる気を持って、様々な手段や方策を取り入れ、職員の安全衛生の 向上を図っており、申し分のない成果を挙げています。また、そうした若手を上司の皆さんが、しっかり見守り、 支えている姿に好感を持ちました。
復興も、安全衛生も、頑張ってください。八戸市を応援しています。
2012年10月17日
中央労働災害防止協会 東北安全衛生サービスセンター
安全管理士 吉田 英司