Report10 Fukui City
職場のハラスメントを撃退せよ 福井市
皆さんの職場でいじめやいやがらせ、起こっていませんか? 見逃してはいませんか? いわゆる「職場のハラスメント」が起こると、被害者は心の健康を崩していき、職場の雰囲気は悪くなり、仕事の能率・効率も損なわれ、組織として大きな損失を被ることとなります。そうならないためにも、組織的なハラスメント対策は必要です。
今回は、「職場のハラスメント」撃退に向け、今年度本格的な対策を講じた福井市の安全衛生活動についてレポートします。
パワハラ・セクハラの抑止力
福井市では、今年度10月1日に「福井市職員の職場のハラスメントに関する苦情処理委員会設置要綱」「福井市職員の職場のハラスメント苦情処理要領」という職場のハラスメントを防止するための2つの要綱・要領を策定しました。
メンタルヘルス障害による長期休職者の中に、パワハラ(パワーハラスメント)との関係が疑われる事案があり、安全衛生委員会の中で話題になったことがきっかけです。「事案の真偽はともかく、いずれにせよパワハラ防止に向けた何らかの対策が必要だ。」そんな委員の声を受け、職員課安全衛生室では、この問題に真剣に取り組み始めました。
こんな「職場のハラスメント」起こっていませんか?
実は福井市では、既に10年前に作成したセクハラ(セクシュアルハラスメント)防止のための「苦情処理委員会設置要綱」がありました。「苦情処理委員会」は、悪質なセクハラには懲戒処分も示唆できる強力な権限と調査権限を備えた専担機関です。この10年の間、職員課安全衛生室や職員労働組合書記局に、セクハラの相談に来る人は何人かいました。けれども、全ての相談事案で、誤解が解けたり、和解できたりしたため、結局「苦情処理委員会」の出番は一度もありませんでした。
今回の取り組みでは、この「苦情処理委員会」の対象を、パワハラも含めた職場のハラスメント全体に変更し、要綱を策定し直しました。また、新たに要領を定め、職員課安全衛生室や職員労働組合書記局を正式な相談窓口とし「苦情処理委員会」前の先導的機関に位置付けました。
「この10年、深刻なセクハラ問題が起こらなかったことは、制度化による抑止力が効いたためではないかと受け止めています。今回の要綱・要領の策定で、パワハラの抑止力効果が追加されることを期待しています。」職員課安全衛生室長の東井ひろ子氏は、こう語ります。
東井氏は保健師出身の安全衛生室長です
福井市では、要綱・要領策定の時期に併せ、管理職職員を対象に「職場のハラスメント対策研修会」を開催しました。研修会では専門家から、ハラスメントの悪影響の実態や、被害者対応の大切さ、効果ある予防策など、実例を織り交ぜた興味深い講義が行われ、聴講者は熱心に聴き入っていました。
職場のハラスメント対策研修会の様子
効果をもたらす委員会の相互交流
福井市には全部で7つの労働安全衛生委員会があり、それぞれ委員会の区分ごとに安全衛生活動が行われています。全ての委員会は、法規定に従い毎月きちんと開催され、「KY活動」や「ヒヤリハット報告活動」などそれぞれの職場状況に応じた安全衛生手法が取り入れられています。
福井市の各委員会の活動が押し並べて活発な要因の一つに、各委員会相互の交流の深さが挙げられます。
まず、委員会を束ねる上位機関として「安全衛生協議会」があります。協議会は副市長を会長に、各委員会の委員、産業医、労働組合の推薦者などから構成され、福井市の安全衛生マネジメントの主要メンバーが一堂に集まる機関となっています。通常は年2回程度開催され、各委員会の活動状況が報告されたり、福井市の安全衛生の方向性や、横断的な公務災害対策活動など、総合的な見地から安全衛生の課題が審議されたりします。
そしてもう一つ、各委員会活動の補完的役割を持つ組織「幹事会」があります。「幹事会」は、各委員会の事務局担当者で構成されています。月1回、各安全衛生委員会の前に召集され、委員会で取り組む議題について話し合ったり、各事業所で起きている問題について情報交換を行ったりします。ここでは、職員課安全衛生室が「安全衛生委員会の議題」になるような案をいくつか提示することになっており、委員会の議題で悩む各担当者にとって良い情報収集の場となっています。
「幹事会では、全委員会で審議する共通議題を採択することがよくあります。幹事会の歴史は古く、福井市では長年にわたって各委員会が足並みをそろえ、一緒に安全衛生文化を高めてきたのかもしれません。」職員課安全衛生室主任の吉岡喜吉氏は、こう話してくれました。
「幹事会は、各委員会活動の不均衡を防いでいる」と吉岡主任
朝ミーティングの効用
福井市の公務災害の特徴として、技能職員の公務災害が少ないことが挙げられます。技能職員の定員が徐々に減ってきていることを差し引いたとしても、ここ3年は1~2人と、かなり少ない数値を示しています。
その秘密は、朝ミーティングにあるようです。現業職場では、すべての場所で朝ミーティングが義務付けられ、安全への注意喚起が行われています。クリーンセンターや収集資源センターでは、毎朝のミーティング時に当番を決めて「作業場の危険なポイント」を指摘し、全員で呼称するKY活動を行っており、朝ミーティングの効果をさらに高めているといいます。
また、福井市の労働安全衛生にとって、最近良い傾向が現れてきました。それは、メンタルヘルス障害による長期病休者が減少に転じ、復職者が増加してきたことです。管理監督者、若手職員、中間層職員と様々な階層に向けて研修を実施したり、本人がストレスチェックを行ったり、復職手続きを制度化したり、様々な取り組みの効果が現れてきたのではないかと職員課安全衛生室ではみています。「今年度立ち上げた職場のハラスメント対策が進むことで、さらに改善されることを願っています。」東井室長は、期待を込めて言いました。
※ 本文中のイメージイラストは(財)地方公務員安全衛生推進協会発行「職場のハラスメント対策」より抜粋したものです
アドバイザーより一言
今年度、職場のハラスメントという問題に真正面から取り組み、規定を作り、研修まで実施されたことに、この問題を長く訴えてきた者として、大変嬉しく感じています。
職場のハラスメントは残念ながら、どんな組織でも発生する可能性がある問題で、永久に無くすという方策はありません。どんなに制度を整えても、表面化しないところでハラスメントがはびこる可能性も否定はできません。
一方、パワハラが怖くて管理監督者として必要な指導ができないというのでは、まったく見当違いで、組織的にもマイナスとなってしまいます。
結局、職場のハラスメント対策で最も大切なことは、職員の知識と意識を高めること。そうした活動を一過性に終わらせず、継続的に行っていくことしかないと私は思います。
また、パワハラは相互の問題です。今後はぜひ、一般職員向けの研修についてもご検討頂けたらと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
2012年10月12日
臨床心理士 社会保険労務士 涌井 美和子