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Report8 Amagasaki City

職員の意識を動かす――伝える意欲、伝わる工夫 尼崎市

職員の安全と健康を守るためには、各部署に配属される安全衛生スタッフも含め、職員一人ひとりの理解や協力が欠かせません。  

伝える方法、伝える態度、伝える強さ、伝える言葉・・・どのようにすれば、理解、納得、共感してもらえるのか、 全国の多くの安全衛生の担当者が思い悩む課題です。

今回は、「伝えること・伝わること」にこだわった尼崎市の安全衛生の様々な取り組みをレポートします。

ITで職員のストレス状態を把握

尼崎市では約10年前より、ストレスチェックのITツール 「e診断@心の健康診断」 を導入しています。 このツールは、職員が職場のパソコンを使って57の質問に回答すると、自身が受けるストレスの度合いと、それによる心身への影響を即座に確認でき、アドバイスまで行ってくれるという優れものです。

写真:e診断のパソコン画面

これがシステムのトップページ 自席で簡単にストレスチェック

また事業者側にとっても大いに役立つもので、隠れたメンタルヘルス障害ハイリスク者の発見ができたり、 職場のストレス要因を分析できたりする機能が備わっています。

しかし、これだけのシステムを導入したにも関わらず、2年前までわずか3割の職員の利用しかありませんでした。 「これでは、宝の持ち腐れ。メンタルヘルス障害を少しでも減らすため、システムをしっかり活用してもらおう。」と、 人事管理部給与課では、平成23年度より定期健康診断の時期に必ず実施してもらうよう働きかけました。 ストレスチェックを行っていない職員に対して所属長に声掛けをお願いするなど熱心な取り組みにより、 今年度は8割以上の職員がストレスチェックを行うまでになりました。

「多くの人が忙しさにかまけ、ストレスチェックに手がつかなかったのでしょう。 しかし、職員の安全と健康を守ることは事業者の務めです。状況を打破するため、断固たる態度を示すことにいたしました。」 給与課長の中道 隆広氏はそう語ります。

写真:中道課長

「給与課が安全衛生担当なんて珍しいでしょう」と中道課長

今年度は、ストレスチェックを受けた2,000人以上の職員の中から、約80人のハイリスク者が発見されました。 ハイリスク者はまず保健師の面談を受け、フォローの必要があれば、次にカウンセラーや産業医といった専門家の カウンセリングを勧められます。

そしてシステムは「仕事量、上司の支援、同僚の支援という面では良好。ただし、仕事の自由度は全国より若干低めで健康リスクを 押し上げている。」と尼崎市のストレス傾向も指し示します。当然、この分析結果は、庁内LANで全職員に伝えられました。

安全衛生だよりに市長メッセージ

尼崎市の安全衛生は、市長部局、水道局、交通局、消防局、教育委員会の5局に分かれ、それぞれ活動が行われています。 その中で市長部局は主導的な役割を担い、他部局もその体制等を準拠することとなっています。

図:尼崎市の安全衛生管理体制図

市長部局の安全衛生活動の実動部隊として活躍するのが、給与課職員健康推進担当の皆さんです。 「いかに職員の皆さんに理解していただくか。それ以前に目に留めていただくかが最大の課題だと思っています。」と話すのは、 同担当係長の後藤 真弓氏。「伝えること・伝わること」を最大限に意識し、 あの手この手の事業に取り組んでいくのが尼崎市流だといいます。

写真:後藤係長 写真:保健師の皆さん

(左)後藤係長 (右)健康推進担当保健師の皆さん。左から藤川 祐未氏、山田 マキ氏、小林 沙耶花氏

同市「安全衛生だより」は、年2回、庁内LANを通し全職員に向け発行される安全衛生の広報紙。フローチャートや図表、 イラストなどを駆使し「ああ、こういうことか」と感じてもらえる面白い紙面を心掛けています。 特筆すべきは、毎号市長メッセージが冒頭に綴られることです。「早めの休養や相談ができていますか?」 職員を気遣う言葉を織り交ぜ、安全衛生の大切さや決意が語られます。職員はこの広報紙を通じ、 トップの安全衛生への関心の高さとスタンスを改めて知ることとなります。

写真:安全衛生だよりにある市長メッセージ 写真:安全衛生だよりの中ページ
写真:スローガンポスター 写真:研修の様子

(左上)安全衛生だより 冒頭の市長メッセージ (右上)安全衛生だより ビジュアルな紙面の一部
(左下)スローガンポスター「溜め込まない! 脂肪とストレス」 (右下)「食事とメンタル」をテーマとした研修の様子

キーマンである各職場の「安全衛生担当者」に向けては、その任務の重要さを感じてもらうことが大切と考え、 毎年4月に人事管理部長から直接辞令を受ける任命式を開催し、任命式終了後、その職務の重要性と現状を理解してもらう ための研修会を行います。また「安全衛生担当者」向け広報紙も、年2回発行しています。

安全衛生研修も工夫しています。毎年、同じような研修を繰り返すのでは飽きられてしまうと考え、実験的で、 意欲的なテーマを採用することも。以前、管理監督者向けに「睡眠」「若者との触れあい方」を切り口にメンタルヘルス研修を開催し、 好評を得ました。今年度は安全衛生担当者向けに「食事とメンタルの関連性」という興味深いテーマを取り上げています。

給与課では、啓発活動や広報、必要な情報を流す時は、必ず他部局の安全衛生部門にも情報を提供し、 尼崎市全体の安全衛生の向上に努めるようにしています。

変わる水道局の安全衛生

尼崎市は阪神工業地帯の中核を担う工業都市として発展した都市。昭和40年代には金属加工業の工場や発電施設がひしめき、 工業用水が多量に必要とされていました。

時代は移り変わり、工場・発電所の撤退が進み、節水技術も向上する中、市の水道局の業務は急速に縮小していきます。 3つあった工業用水の配水場は1つに減り、一時は約500人いた職員も、現在は189人まで削減されました。

写真:尼崎市水道局庁舎

尼崎市水道局 庁舎

組織がスモールサイジングしていく中、尼崎市水道局は、労働安全衛生について確かな手ごたえを得られなくなっていました。 「公務災害が発生する度、原因分析、再発防止策に取り組んできましたが、災害を減少できずにいました。 リストラが進み、業務が多重化し、打開点が見えませんでした。」管理課長の中嶋 崇裕氏は、当時を振り返ります。 そんな中、平成20年5月、石丸 千賀子氏が嘱託保健師として配属されます。

水道局初の保健師の登場で、尼崎市水道局の安全衛生活動は一変します。石丸保健師は、職場に「安全文化」を醸成すること、 そして職場のリスクを摘み取る活動を行うことが必要と考え、まずは年数回しか行われなかった安全衛生委員会の開催を増やすよう 働きかけていきました。周囲の職員の協力と理解を仰ぎながら徐々に回数を増やし、平成23年度以降は、毎月開催しています。

そして、職場のリスクを職員の目に見える形で提示するため「ヒヤリハット事例集」の作成を進めます。 事例の収集を行い、集まった事例を安全衛生委員会で検討し、平成22年9月に各職場に配付しました。

写真:ヒヤリハット事例集

水道局ヒヤリハット事例集

また平成23年度から、水道局オリジナルスローガンを設定。ポスターを作って、水道局の4つの施設に掲示を行っています。 ちなみに、今年度のスローガンは「声かけよう あなたの私のみんなの安全」。さらに 「水道局安全衛生だより」 を発行。 市長部局に倣って、見せる読ませる紙面で安全衛生情報を職員に提供しています。

写真:水道局ポスター

水道局オリジナルスローガン

このような活動が実り、平成23年度の尼崎市水道局の公務災害件数は“0件”となり、中嶋課長、石丸保健師、 ほか安全衛生に関わる面々が、喜びを分かち合いました。

しかし、今年度は既に3件の公務災害(全て指挟み事故)が発生。石丸保健師は、継続して公務災害を無くす困難さを痛感しながらも 「今年度は、昨年度まで年1回だった産業医による巡視を毎月行うこととしました。着実に安全活動は活発化しており 安全文化も育まれてきています。良い結果を信じて根気よく頑張っていきたい。」とその決意を語ってくれました。

アドバイザーより一言

写真:アドバイザーの溝上氏

職員の安全衛生や健康管理について多様な活動を、年間通して計画的に行っています。こと近年、 長期病気休暇の主要な原因となっている精神疾患については、意欲的に事業を展開されています。 工夫を凝らした研修内容、庁内LANを使ったシステムの導入、希望者への健康相談に加え、 リハビリ出勤の制度を導入し病気休職者がスムーズに職場復帰できる支援環境も整っています。

このように先進的な活動が根付いていますので、その取り組みを、内外に情報発信してみてはいかがでしょうか。 改善前後の写真を添付するなど、その効果がわかるよう工夫して発信されると、なお良いと思います。

これからも職場における自主活動を軸にしたバランスのとれた安全衛生の取り組みを期待します。

2012年10月12日
国立国際医療研究センター疫学予防研究部長
労働衛生コンサルタント 溝上 哲也

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City profile

兵庫県尼崎市

尼崎市章
尼崎市位置図

  • 面積 50.20km2
  • 人口 450,182人
    (2012年4月1日現在)
  • 人口密度 9,009人 /km2

市の木 ハナミズキ

写真:ハナミズキ

市の花キョウチクトウ

写真:キョウチクトウ

市の草花 ベゴニア

写真:ベゴニア

 

City office

尼崎市役所

写真:尼崎市役所

〒660-8501
兵庫県尼崎市
東七松町一丁目23番1号

職員数
3,190人
2012年4月1日現在
地方公共団体定員管理
調査(総務省)による
【内訳】
一般行政 1,767人
教育 499人
消防 419人
公営企業 505人

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